道徳の中断読み

 前文部科学事務次官の前川喜平氏の肉声を初めて聞いた。最近は講演で引っ張りだこで松江市にも招かれた。「この前は長崎に行きましたが、ちょうどその日は雨。それなら歌を歌えと言われまして」と前振りのジョーク。前川清さんがリードボーカルを務めたクールファイブのヒット曲「長崎は今日も雨だった」を引き合いに、歌手の名前と「前川き」までは同じなのでと畳み掛けた▼昨年は国会などでその発言が注目を集めたが、文科省を辞めてから「忖度(そんたく)も改ざんも要らなくなった」立場で道徳教育について持論を語った。今春から小学校で教科化されたが、戦後教育の中で論争の渦中に置かれてきた道徳の取り扱いに文科省も神経を使う▼その神経の使いようは道徳の「成績」をどう評価するかに凝縮されている。そもそも道徳を客観的に評価できるのかという神学論争があり、付き合っていれば際限がない。数値化して他人と比較する序列化の批判を避けるため、文科省は子どもたちが授業を受ける前と後でどう変わったかを記述する個人内評価を編み出した▼前川氏によると、教科書を通じて特定の価値観を子どもたちに刷り込むのは危険であり、それを避けるためにお勧めなのが道徳教科書の中断読み。教科書を読むのを途中で止めて、その先は子供たちに考えさせる▼お手本を示さないでめいめいが勝手に思いを巡らす。それで教育と言えるのかという批判もあるが、答えのない答えを探す思考の旅をかわいい子にはさせてみたい。(前)

2018年7月3日 無断転載禁止