長距離自転車の達成感

 ロック歌手の故忌野清志郎さんは大の自転車好きだった。ステージでの派手な姿からは想像が付かない。サイクル生活は50歳から始め、音楽活動の合間を縫って銀輪を駆り各地に出掛けた。「自転車はブルース」。ファンに語り継がれる決め言葉も残した▼バンド仲間と結成した趣味のチームの名は「ロング・スロー・ディスタンス」。長距離をゆっくり走るのが好みで、俳人・松尾芭蕉の足跡をたどり1千キロ超を走る東北ツアーを敢行し、キューバを自転車旅で駆け抜けたこともあった▼清志郎さんの自転車スタイルを実践するかのようなロングライドというイベントが人気だ。タイムや順位を競うレースではなく、あくまで完走が目的のサイクリング。走行距離50キロ以上の大会はネットを検索すると200件を超す▼弁慶の伝説にちなんだロングライド大会が、大山と中海・宍道湖周辺で初めて開催された。圏域を周回するルートで、湖岸の景色を楽しんでから弓浜半島で日本海を眺望。山陰の落ち着いた風情に触れると、暑さを一瞬でも忘れることができたのでは▼走った距離は1日開催としては長い200キロ。加えて、発着点が秀峰大山ならではの挑戦意欲をかき立てる設定も、この大会を特徴づけた。最後の最後に待ち構えた上り坂10キロの胸突き八丁がそれ▼酷な山上りはゴール後の達成感を増すためのスパイスとばかりにペダルを踏む参加者たち。したたる汗をいとわぬ姿を見て、自転車乗りだった清志郎さんの曲のリズムをつい刻んでいた。(泰)

2018年7月5日 無断転載禁止