松本死刑囚らの刑執行/事件とどう向き合うか

 坂本堤弁護士一家殺害事件や地下鉄、松本両サリン事件などオウム真理教による一連の事件の首謀者として死刑が確定した松本智津夫死刑囚ら7人の刑が執行された。教祖名は「麻原彰晃」。犯罪史上類を見ない数々の凄惨(せいさん)な事件を引き起こした教団トップは22年前に始まった一審公判の途中から沈黙、真相を語らないまま最期を迎えた。

 教団事件は13件。判決で認定された死者は27人、起訴後の死亡者などを含めた犠牲者は29人に上り、国は6500人以上の被害者を確認している。未曽有の凶行に遺族や被害者、国民から厳しい視線が向けられていたのは間違いない。ただ執行を巡っては、さまざまな議論があった。

 松本死刑囚が宗教の名の下に高学歴の若者を引き込み、暴走した経緯は依然として未解明の部分が多い。松本死刑囚について、作家や映画監督らは「適切に治療し、審理をし直すべきだ」と表明。テロ対策などを巡り「命ある限り、最大限の情報収集をすべきだ」と国際的な研究プロジェクトのメンバーは死刑囚の聞き取りを重ねていた。

 そんな中、上川陽子法相は執行を命じた。もう松本死刑囚らに真相をただすことはできない。風化が進む事件と、これからどう向き合うか。社会は大きな課題を背負う。さらに執行に至るまでの過程がほとんど厚いベールに包まれている死刑制度の在り方についても議論が必要になろう。

 記者会見した上川法相は松本死刑囚や井上嘉浩、新実智光、中川智正の各死刑囚ら刑が執行された7人の名前と13事件の概要を読み上げ「裁判所の十分な審理を経て死刑が確定した。慎重の上に慎重な検討を重ねた」と強調。また確定死刑囚13人のうち7人を選んだ理由は明らかにせず、死刑制度の存続はやむを得ないとの考えを示した。

 「執行は当然」「やっと」という受け止めがある一方、複雑な胸の内を漏らす人も少なくない。地下鉄事件の現場となった駅の助役だった夫を失った高橋シズヱさんは「テロ対策という意味で、もっと彼らには話してほしかった」とし、松本事件の被害者で捜査対象にもなった河野義行さんも「真実に迫ることができなくなって残念」と語った。

 マレーシアで昨年2月に北朝鮮の金正男(キムジョンナム)氏が猛毒の神経剤VXで殺害された事件を巡っては国際的な研究プロジェクトのメンバーが、教団でVXを使い、今回刑が執行された中川死刑囚から、その中毒症状や製造プロセスについて詳細な聞き取りをしていた。

 こうした証言はテロ対策などに貴重だったとされる。さらに、なぜこの教団のような「狂気」が生まれ、多くの若者が引きつけられたのかという問いへの答えも出ていない。教団が3団体に分かれ、いずれも松本死刑囚の影響下にあるとみられる中、事件を風化させず、検証を重ねながら教訓を語り継いでいく努力を怠らないようにしたい。

 一連の執行を機に、世界的な死刑廃止の潮流の中で、維持されている日本の死刑制度について改めて考えてみる必要もある。対象者がどのように選ばれるかも含め、執行に至るまでの過程は一般にはほとんど知られていない。裁判員裁判で死刑と向き合う市民は増えており、情報公開などを議論すべきだろう。

2018年7月7日 無断転載禁止