米中が制裁関税/自由貿易の基盤が揺らぐ

 世界1位の経済大国である米国が2位の中国に制裁関税を発動し中国も対抗、互いに敵意をむき出しにした本格的な「貿易戦争」に突入した。米中の国内総生産(GDP)は合わせて世界の4割。世界経済の健全な発展を主導すべき立場の両国が、保護主義的な通商政策を突き合わせ、一歩も引かない危険な状態だ。

 米国は既に鉄鋼、アルミニウムを対象に欧州連合(EU)、カナダなどに向けて制裁関税を実施。さらに、自動車や同部品についても関税引き上げを検討中だ。自動車は雇用や生産の規模が大きく、発動されればその影響は鉄鋼などの比ではない。関係国の間では報復の連鎖が広がり始めている。今回の米中による制裁関税は、こうした動きに拍車を掛け、世界経済をさらに混乱に陥れる恐れがある。

 保護主義による経済のブロック化が戦争を招いたとの反省から国際社会は戦後一貫して自由貿易を推進してきたが、その基盤が大きく揺らいでいる。憂慮すべき事態だ。

 現状では望みは薄いだろうが、危険な状態から引き返す努力は放棄してはならない。米中両国には歩み寄りの余地を探り、振り上げた拳を下ろすよう求めたい。国際社会も両国に踏みとどまるよう説得を続けなければならない。

 同時に、現実を見据えた対応も進める必要がある。米中間の制裁関税ではあるが、他国も無関係ではいられないからだ。日本の場合、自動車などの製造工場が世界各地に展開し、部品や原材料の供給経路や完成商品の納入先は多岐にわたる。日本政府は産業別に影響の進度を調査し、必要に応じた対策を検討すべきだろう。

 国際社会が米国を説得するために、これまで用いてきたのは自由貿易が掲げる理念だけではない。貿易協定による実利も打ち出してきた。11カ国が合意、発効を目指している環太平洋連携協定(TPP)は、加入しなければ米国に不利益になる枠組みだ。

 だが、トランプ大統領は安全保障政策も絡めながら二国間の取引を多用する手法を改めず逆に強化してきた。残念ながら、この構図は今後も変わりそうもない。

 トランプ氏が優先しているのは短期的には、11月の中間選挙に向けて貿易赤字の解消、国内雇用の維持・創出に取り組んでいる姿を国民に見せることだ。中長期的には軍事、経済面での台頭著しい中国への対抗だろう。

 これらの目的を達成するために選択したのが、世界貿易機関(WTO)を中心とした多国間貿易交渉ではなく、制裁関税や投資制限などの保護主義的な手段だ。

 中国は、次世代情報技術や半導体などをけん引役として製造業の国際競争力を引き上げる「中国製造2025」を進めている。だが中国に進出した外国企業に技術移転を強要したり、補助金で自国企業を支援したりするなどの振る舞いが目立っている。

 こうした問題に対するWTOの取り組みは十分ではなく、トランプ氏が「頼むに足らず」と見ている限り、米国は国際協調の場には戻ってこない可能性もある。自由貿易のルールを逸脱した対応を続ける米国に譲歩してはならないが、現状に適切に対応できなくなっているWTOの機能強化も喫緊の課題だ。

2018年7月9日 無断転載禁止