死刑制度の在り方/議論を深める環境を

 坂本堤弁護士一家殺害事件や地下鉄、松本両サリン事件など一連のオウム真理教事件で、首謀者の松本智津夫元死刑囚ら7人の刑が執行されたことに内外で批判が高まっている。「重大な人権侵害」と日弁連が抗議。欧州各国は「極刑に強く明確に反対する」とし「死刑廃止を視野に入れた執行停止の導入を呼び掛ける」と声明を出した。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、昨年末の時点で死刑廃止国は106カ国。死刑制度はあっても、10年以上執行のない事実上の廃止国も含めると、142カ国になる。経済協力開発機構(OECD)加盟国で制度があるのは日本、米国、韓国。うち韓国は1997年を最後に執行がない。

 国際的な死刑廃止の潮流の中で上川陽子法相は、法務省が執行を公表するようになった98年以降では最多となる7人の同時執行を命じた。廃止派は「死刑は非人道的で残虐」「誤判があれば取り返しがつかない」と反発。一方、容認派は「被害者や遺族の感情を考えれば当然」「凶悪犯罪に死刑を科すのはやむを得ない」としている。

 ただ7人について、判決確定から執行に至るまでの過程はほとんど明らかにされていない。死刑に関する情報公開は停滞したままだ。廃止か容認か、いずれの立場を取るにしても、国民が十分な情報と理解に基づいて議論を深める環境を整える必要がある。

 なぜ今の時期なのか。教団事件の確定死刑囚13人から、7人はどのようにして選ばれたか。「訴訟能力がない」との指摘もあった松本元死刑囚の執行時の精神状態は。記者会見した上川法相は質問に「個々の執行の判断に関わる」として説明を避けた。

 2019年には天皇退位で元号が変わる。重要な行事も相次ぐ。「平成の事件は平成のうちに区切りを付ける」が大方針になったという。さらに首謀者の松本元死刑囚を他の元幹部より後にしないことが決まり、あとは教団内の地位や関与した事件、役割などを考慮したとされる。また共犯者はなるべく同じ日に執行することから、全員同時も検討されたようだ。

 法務省などから執行の裏側は漏れ伝わってくるが、実際に取られた手続きははっきりしない。松本元死刑囚の精神状態についても法相は「医師の診療を受けさせるなど慎重な配慮がなされている」と一般論しか述べなかった。

 松本元死刑囚は1996年に始まった裁判の途中から意味不明の発言を繰り返した。やがて一言も発しなくなり、一審判決後に弁護団は「訴訟能力がない」と主張。裁判所はこれを退け、判決が確定したが、その後は家族も面会できなくなった。

 刑事訴訟法は死刑囚について「心神喪失の状態にあるときは法務大臣の命令によって執行を停止する」と定める。適正手続きの観点からも、精神状態をどう判定したか、詳しく説明すべきだろう。

 残る死刑囚6人の執行も、そう遠くないとみられる。裁判員裁判で、人の命を奪う「究極の刑罰」と向き合う一般市民はこれからも増えていく。対象者の名前や執行場所だけでなく、執行に至る法務当局内の議論も含め、幅広い情報公開が必要とされる時期に来ている。

2018年7月13日 無断転載禁止