古代出雲の薬草

 「夏は天地の精気が交わりすべての花が実を結ぶ。この季節はぐっすり眠って朝は早起きし、太陽の日差しを嫌わずに積極的に外に出て暑さを楽しむ」▼平安時代の984年に朝廷に献上された医学書「医心方」にある夏の養生の心得だ。背筋が伸びるような文が続く。「怒らず美しい花が実となるように志を充実させ、大きな木のように思いやりの深い愛の枝を繁(しげ)らせて、人をその木陰に憩わせるような姿勢で生きよ」▼医心方は中国の文献を症例別に編集した全30巻で、内科や外科、美容や性愛まで網羅する。長く秘本だった同書は、古典医学研究家の槙佐知子さんの現代語訳で全容を知ることができる。現代医学に劣る面はあるだろうが、文明の利器に頼らないいにしえの知恵は、身に付けたい術(すべ)の一つだ▼とりわけ出雲の人々にとって薬草は古くから身近な物だった。733年の出雲国風土記には90種類を超える薬草が記載され、他地方の風土記の群を抜く。日本固有の医方をまとめた808年の「大同類聚方(だいどうるいじゅうほう)」にも出雲伝承の薬方が多く載り、古代出雲が医薬の国だったことを裏付ける▼3年前に出雲市在住の女性らが始めた「古代出雲薬草探求会」は、季節ごとの薬草をお茶にしたり、料理したりと風土記記載の薬草を現代の生活に取り入れる活動をする▼来年3月、探求会代表の須田ひとみさんが出雲市大社町に開くカフェの一角に、風土記に載る植物が一覧できる標本展示室がオープンする。古代出雲の知られざる伝統を後世に伝えたい。(衣)

2018年7月14日 無断転載禁止