地ビールのお楽しみ/土地への思い語る契機に

街の元気づくりコーディネーター 久保 里砂子

 「松江茶ビール」が発売されたと聞いて、さっそく飲んでみた。苦味のあるペールエールビール。お茶のほのかな香りと味わいが、じわっとくる。

 お茶風味の商品といえば、抹茶がブレンドされているものが多いが、「松江茶ビール」は、検討を重ねた末に、煎茶をブレンドしたそうだ。商品開発の過程で、さまざまな素材や製法を試すのはごく普通のこと。なのに、その話を聞いたときに、なぜか松江の暮らしでは抹茶も煎茶も、ほうじ茶も番茶も、さまざまな場面で、あるいは好みで時に応じて選ばれていたことを思い出した。

 今や全国的に、急須を日常的に使う家は少なくなっており、「お茶」と言えば、ペットボトルのお茶が出てくるともいわれているが、松江では今でも抹茶、煎茶、番茶など、日本茶も数種類、日常的に飲んでいる家が少なくないのではないか。

 お茶の生産地でもないのに消費量が多い、暮らしの文化として根付いている暮らしぶりを思い出し、煎茶をブレンドした茶ビールが素人目には意外性もあり、一方で、なぜか松江らしいと感じたのかもしれない。

 ラベルがまたいい。松江城が遠目に描かれ、両サイドに松。写実的に描かれたものではないが、松江の町並みと、市民が松江城好きなことを思い出す。城の周りを塗りつぶされた緑には、お茶の緑と、松江城の前のツツジの緑を思い出す。中央に不昧公(ふまいこう)200年祭のロゴがあり、さまざまなイベントで盛り上がっていることだろうと思いをはせた。

 イメージを膨らませ過ぎだろうか。だが、地ビールのお楽しみは、その土地への思いを語りながら楽しく飲むことではないかと思う。

 私は以前、早稲田大学周辺の商店街で「早稲田ビール」を販売したことがある。年間1万本売っていたので地方の地ビールとしては、結構な販売量だった。購入してくれるのは、早大の卒業生や、在学生の親など。入学式や卒業式に参列した親たちはお土産に、喜んで(誇らしげに)買って帰る。OB会の席の乾杯にもよく使っていただいた。飲んでいる時の会話や、気持ちが想像できる。そんな語らいに一役買う「早稲田ビール」を販売するのがうれしかった。

 また、ちょうど今、米子でも、475(よなご)ビールが製造を開始した。大山の湧水と地元の旬の果実などを使い、数種類のビールを生で提供するという。瓶詰め機を購入するためにクラウドファンディングに挑戦したところ、目標金額の2倍以上の745万円集まったという。「私も飲みたいぞ」という人の支援だろう。

 クラフトビールはそれぞれ、味にも特徴があるが、日本人は大手メーカーが、そろって大量に提供し続けた、すっきり飲みやすいラガービールに慣れているので、マイクロブリュワリー(小規模醸造所)が、こだわりを持って造るさまざまなタイプのビールには、好みが分かれるものも少なくない。味を好んで飲まれるのが、製造者にとっては一番だが、クラフトビールの価値はそれだけではないと思う。

 このたび、松江茶ビールとともに、「ビアへるん」も取り寄せていただいたのだが、一緒に飲んだ人に、缶にデザインされたヘルンさんを、「この人は誰?」と聞かれて苦笑。一語りさせてもらい、楽しいひと時だった。

 不昧公200年祭で登場した「松江茶ビール」が、ビアへるんとともに、松江を語る名脇役として、長く愛されることを期待している。

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 くぼ・りさこ 青森県弘前市出身。商品科学研究所、セゾン総合研究所研究員を経て、商店街活性化、街づくりを実践。2008~11年度まで、松江市中心市街地活性化協議会タウンマネージャー。青森県むつ市在住。

2018年7月15日 無断転載禁止