桜から着想したクローン

 芸術の都パリのルーブル美術館は「モナ・リザ」をはじめとして、38万点以上の所蔵品があり、年間800万人以上が鑑賞に訪れる芸術・文化の聖地だ▼最新の文化財複製技術「クローン文化財」を生み出した松江市出身の東京芸大名誉教授、宮廻正明さんが目指すのは聖地での展示。その挑戦の第一歩と位置付ける企画展が島根県立美術館で始まった▼本物の国宝や文化財は保管、または喪失している。目の前にあるのは「偽物」だと分かっていても圧倒されるはずだ。匂い、音といった工夫が随所に施され、作品によっては手で触れられる。本物以上の迫力を持つクローンが五感を刺激する▼クローンという呼び名は、宮廻さんが上野公園に咲くソメイヨシノから着想した。2種類の桜の交配種を起源とするクローンだ。負のイメージも付きまとう言葉だったが「使い方次第では誰もに愛される」と確信した▼デジタル技術を駆使して、失われた文化財をよみがえらせる。常識を覆す宮廻さんの発想を形にしたのは日本最高の技術と知識を持つ東京芸大のスタッフ。当初は「複製に意味があるのか」との疑問もあったというが、数年で巨大な研究棟が立つほどに急成長した▼「未来にどうなっているか分からないことをやる」と、不敵に笑う宮廻さんは常に二、三歩先のビジョンを描く。展示中の法隆寺釈迦三尊像は現在、内側から光り輝くクリスタル製を準備中。その目にはルーブルを訪れた世界の目利きたちが驚く様がはっきり見えているはずだ。(築)

2018年7月18日 無断転載禁止