夏の重い宿題

 「記事を書こうとする根拠は何だ」。鳥取勤務だった十数年前、先輩記者によく指摘された。薄暗い県議会の記者室で取材の内容を説明しようとするが、考えがうまく伝わらない。「記事にはならないでしょうか」と問うと、「君はどう思うんだ」との言葉が返ってきた▼何度も味わった経験は今も胸に刻んでいる。相手に伝えるべき事実は何か、説得できる根拠はあるか。何より判断を委ねるのではなく、自らの考えを言うように心がけている▼中国電力島根原発3号機の新規稼働に必要な審査申請をめぐり、その思いを強くしている。島根県の溝口善兵衛知事の政治家としての姿勢が見えないからだ。3号機の視察後、電力需給の観点から慎重だった新規稼働に理解を示し、審査申請も容認する姿勢を明らかにした▼翌日に発言を撤回してから、自らの考えをしまい込む。最終的には8月に判断する考えに軌道修正したものの、一時は原発30キロ圏内の周辺自治体が容認すれば了解という主体性を欠く対応を口にした▼県政の重要課題の原発をめぐる判断で、他人にゲタを預けるかのような姿勢。そこに疑問を感じた県議会からはこの間、自らが判断して県民に論拠を示すよう異例の注文を付けられた▼どこかの首相のように独善的ではなく、意見を聞く姿勢は大切だが、政治家は最後には判断と説明責任が求められる。県議会や住民説明会では稼働の必要性の論拠を示すよう求める意見が相次いだ。夏の重い宿題に知事が答えを出す日が近づいている。(添)

2018年7月22日 無断転載禁止