悩む若者と「夜明け前」/無条件の所得再分配を

 持続可能な地域社会 総合研究所所長 藤山 浩

 先日、知り合いの大学の先生に聞いた話だ。就職して2~3年がたち、悩みを抱えて、相談に来る卒業生が増えているそうだ。

 この話、年配の方は、甘い学生生活から一転して「世間の荒波」にもまれているからだという見立てをするかもしれない。しかし、私は、そうした若者の悩みに、今の働き方や社会に関する本質的な問題提起を感じている。

 つまり、「こんなことをして、誰が幸せになるのだろうか」と思ってしまう仕事が多過ぎるのだ。

 今から考えると、高度経済成長期は、自分の幸せ、会社の利益、社会の進化がお互いにつながっていく実感を持つことができた時代だった。自分が頑張って冷蔵庫やテレビ、車を造ったり売ったりすれば、会社はどんどんもうかり、そして自分も人々の暮らしも便利になる。

 モノとサービスにあふれた現在。これ以上、大量につくっても売っても、人々の幸せはあまり増えない時代だ。たまにテレビを見ると、あそこまでコマーシャルをしないと売れないのか、と思ってしまう。売っている人自身、特に若者は、「この商品やサービスを買わせて、本当に良いのだろうか」と素直に感じる場合も多いだろう。

 グーグルやフェイスブックのような新しい業態が、閉塞(へいそく)感漂う経済に突破口を開いていると思う人もいる。しかし、よく考えると、グーグルやフェイスブックの巨大な売り上げのほとんどは、個人情報とリンクさせたコマーシャルをクリックさせることで成り立っている。一見、クリエーティブなビジネスモデルに見えて、実はかなり古い20世紀的な「浪費を創り出す」システムに依拠している。

 目覚ましい成長が見えない中、会社の多くは守りに走っている。利益を確保しても、社員への給与は増やさず、日本全体では数百兆円に及ぶ内部留保が積み立てられている。さまざまな営業をかけても急に売り上げが増える時代ではない。

 そして、会社上層部や中間管理職の「やっていないわけではありません」というアリバイづくりのために、どれだけの面倒くさい提案、集計、報告などの仕事が若者に押し付けられていることか。本当に、「こんなことをして誰が」の日々なのだ。

 社会全体の経済成長を前提に、「独り勝ち」を求めてしのぎを削る時代は、とうに終わっている。これからは、自然生態系の傑作の一つである「サンゴ礁」のように、一人一人の小さな居場所と営みが共生し、お互いが役立っている実感を持つことのできる、美しくつながった地域社会を構築する時代なのだ。

 そのためには、「サンゴ礁」全体に平等に恵みを与える太陽の光や海流の流れのように、すべての人々に無条件で、「健康で文化的な暮らし」のための所得=「ベーシック・インカム」を保証する時が来ているのではなかろうか。

 前代未聞の富の不平等の再分配を図り、シェアリングエコノミーと再生可能エネルギー利用を進化させれば、その原資は十分にある。失業と貧困の恐怖からではなく、自分と仲間を幸せにするために仕事をする文明を開化させることはできるのだ。

 現在の若者の真(しん)摯(し)な悩みを、新しい共生経済の「夜明け」につなげていきたいと、心から望む。

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 ふじやま・こう 1959年、益田市生まれ、一橋大経済学部卒業。博士(マネジメント)。国土交通省国土政策局「国土審議会 住み続けられる国土専門委員会」委員他、国・県委員多数。近著に「循環型経済をつくる」(農文協)など。

2018年7月22日 無断転載禁止