化けて出る気も失せる夏

 「ハーンはとても興味深い男だ。話は繊細で哲学的だ」。これは米国アニメ映画の巨匠ウォルト・ディズニーの手紙にある小泉八雲評。八雲のひ孫の凡さんが昨年訪米した際に見つけた▼宛先は米国陸軍准将で、GHQでマッカーサーを補佐したボナー・フェラーズ。八雲を愛する知日派で小泉家とも親交が深く、凡さんの名前は「ボナー」にちなんで付けられた▼手紙が書かれたのは1958年。おそらくフェラーズは、軍と良好な関係だったディズニーに八雲作品のアニメ化を勧めていたのだろう。50年代はシンデレラやアリス、ピーター・パンなど、各国の童話や戯曲を原作に持つ作品が次々と世に出ていた時期だ▼ディズニーランドを生んだ実業家としても絶頂期だったディズニー。残念ながら八雲については「私たちにはそぐわない」と当の手紙で断りを入れた▼東洋のミステリアスな世界に、アニメ王の触手は動かなかった。怪談は日本の、それも夏が一番似合うということか。筆者が八雲の名作「耳なし芳一」を初めて読んだのも、小学校の夏休みで帰省していた祖父の家。あまりの怖さに、かやぶきの家の外にあるトイレに、一人で行けなくなった。怪談を夏の風物詩にしたのは、気持ちの上で涼しさを求める先人の知恵だ▼それにしても、この夏の暑さは何だろう。どんなに肝を冷やす怪談も太刀打ちできそうにない。先ごろ亡くなった落語家の桂歌丸さんは怪談噺(ばなし)の名手だったが、あまりの暑さに化けて出る気も失せているだろう。(示)

2018年7月25日 無断転載禁止