世事抄録 ラーゲリ

 終戦後に旧ソ連に抑留され、シベリアなどで亡くなった9人の身元が特定されたという短い記事が先月の新聞に載っていた。

 昨年は鳥取、数年前は島根の出身者の名前もあった。戦後70年以上過ぎた今も身元の調査が続く。厚生労働省の調べでは、旧ソ連地域に抑留された軍人等は約57万5千人、うち約5万5千人が死亡したとされる。

 昨年、新聞で目にしたシベリア抑留記事の中に、辺見じゅんさんの代表作で大宅ノンフィクション賞を受賞した「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」が紹介されていた。登場する故山本幡男さんは現在の隠岐・西ノ島町の出身。旧満州から抑留されたが、極寒の地でも矜持(きょうじ)を失わず、句会や壁新聞を通して仲間を支えた末に病に倒れた。

 家族に残した魂の叫びを刻んだ遺書は、6人の仲間が分担して暗記、引き揚げ後、遺族に次々届けた。発売当時、同じ西ノ島に生まれた縁もあり、感動を共有したくて身近な人たちに何冊も贈った。

 山本は子供たちへの遺書で「日本民族こそ将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋の優れた道義の文化―人道主義を以(もっ)て世界文化再建に寄与しうる唯一の民族である。この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ」と言い残した。同県人として誇りに思った当時の思いが短い記事から再びよみがえった。

 (出雲市・呑舟)

2018年7月26日 無断転載禁止