日銀の金融政策/2%上昇は必達なのか

 大規模金融緩和が始まって5年、物価の動きは鈍いままだ。物価上昇率2%の目標は必達の命題なのか。そろそろ虚心坦懐(たんかい)に考える時期なのではないか。

 賃金は伸び悩んでいるものの企業業績は高水準を維持、雇用情勢も特に深刻な問題はない。物価上昇率が2%に達していなくても日本経済は安定し、少なくとも、物価が持続的に下落し、経済活動を萎縮させるデフレスパイラルからは脱している。それでも日銀は、副作用には一定の配慮をしながら大規模な金融緩和を続け、あくまでも2%クリアを目指すという。

 2%目標は中長期の目標として遠景に退け、1%を超えて安定した段階で、政策の見直しを検討することも考えていいのではないか。

 この間の低金利で金融機関は体力をすり減らしてきた。優良な融資先が少なく、運用のノウハウも乏しい地域金融機関の経営は特に深刻だ。減益が続くどころか本業で赤字に陥る地銀も多い。金融システムの安定という観点からすれば、問題が多いことは日銀も認めざるを得ないだろう。

 さらに指摘しなければならないのは、財政規律が弛緩(しかん)してしまっていることだ。政府が2018年度に発行する国債は、償還資金を調達する借換債を含め約150兆円。これだけの国債が市場に押し寄せれば、通常は金利が上昇、利払い費が増えて、発行者である政府に抑制を促す。

 しかし、日銀が金融緩和で大量に購入するため、金利上昇で「警告」を発する市場本来の機能が失われてしまっている。金融機関の経営への打撃もそうだが、特に財政政策をゆがめている副作用については、次世代が背負うことになる負担を考えれば、極めて憂慮すべき問題と言えよう。

 今回、日銀は誘導目標を0%程度としてきた長期金利について、多少上振れすることは容認することにした。具体的には0.2%程度の上昇は許すとしているが効果は限られよう。それもこれも、2%達成のためなら甘受せよというのが日銀の立場だ。

 物価が上昇しないことが今の日本経済にとって一概に有害と言えるのか。日銀は、再びデフレスパイラルに引き戻される危険がまだあるから、さらに上げなければならないと見ているのであろう。しかし、景気が拡大を続ける中で説得力を持ち得るだろうか。そもそもの政策の出発点を、現状から照らして点検する必要はないだろうか。

 百歩譲って、上げなければならないとしても、現在の金融政策は有効なのか疑問を持たざるを得ない。日銀は、物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣習が根強く残っていることなどが物価上昇を阻んでいる主因と分析している。それ以上に影響が大きいのは、グローバル化の進展による新興国との競争激化や、技術革新によるネット・デジタル経済の拡大だろう。

 5年かけても物価が目標に達していない。さらに政府が単純労働分野での外国人労働者受け入れに政策転換するほど深刻な人手不足の中でも、物価上昇が鈍い。従来の常識では考えられない事態だ。単純な構図ではなく、さまざまな要因が絡まっているだろうが、新たな経済の潮流に政策が追い付いていないのではないかとの不安に駆られる。

2018年8月1日 無断転載禁止