学びのスイッチ

 独学で数学を学び直している。高校時代に微分積分で挫折し、毛嫌いしてきたが、ふと読んだベストセラー小説で思わぬスイッチが入った▼芥川賞作家・小川洋子さんの「博士の愛した数式」である。交通事故の後遺症で記憶が80分しか継続しない数学者「博士」と主人公の家政婦、その息子の触れ合いを美しい数式と共に描いた▼博士は素数や完全数(自分自身を除き、割り切れる数を全て足すと自分自身に等しくなる数)といった用語を情緒的に説明。「永遠の真実は目には見えない。数学はその姿を解明し、表現することができる」と哲学的な言葉をちりばめる。こんな教師に出会っていればと歯がみする▼AI(人工知能)やデータ活用の流れが加速し、数学は必須教養となりつつある。私大最難関とされる早稲田大政治経済学部が一般入試で必須化を決めた。文系・理系の枠組みがなくなり、数学は最重要科目になるかもしれない▼ただ、島根の子どもたちの現状は心もとない。全国学力テストの学習調査で微増していた「算数好き」の6年生の割合が2ポイント減で60%を割り込み、全国45位と低迷した。県教委は授業改善プロジェクトチームを設けて、算数好きの子どもを増やすのを目標にしてきただけに、担当者は「想定外の結果だ」とショックを隠さない▼なぜ算数を学ぶのか、暮らしにどう役立てればいいのか。子どもたちは入り口でさまよっているように映る。博士のように学びのスイッチを入れる人材をいかに育てるか。今が正念場だ。(玉)

2018年8月4日 無断転載禁止