日朝外相の接触/トップの決断促す交渉を

 河野太郎外相は訪問先のシンガポールで、北朝鮮の李容浩(リヨンホ)外相と立ち話形式で短時間、言葉を交わした。6月に実現した米朝首脳会談で日本人拉致問題が取り上げられて以降、日朝間では初めての閣僚の接触だ。

 河野外相は「日本政府の基本的立場を伝えた」と説明。安倍晋三首相と金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談開催を目指す立場から拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決を要求。拉致問題が解決すれば国交正常化した後に経済協力を行うとの考えを伝えたとみられる。李外相の反応は明らかにしなかった。

 ただ日本政府が働き掛けた着席形式での正式な外相会談に李外相が応じなかったのは、日朝協議に対する現時点での北朝鮮側の消極的な姿勢を示すものと言えよう。米国との間で非核化と体制保証の交渉が進展していない中、日本政府と拉致問題の協議を急ぐ必要はないと北朝鮮は判断しているのではないか。

 だが拉致問題は被害者もその家族も高齢化し、解決が急がれる。膠着(こうちゃく)状態を打開するには、北朝鮮トップの金委員長の決断を促すしかない。安倍首相と金委員長による首脳同士の話し合いの実現に向け粘り強い交渉が求められる。

 両外相はシンガポールでの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会議での夕食会の際に接触したという。

 6月の米朝首脳会談で、トランプ米大統領は拉致問題を取り上げて、日本政府と話し合うよう金委員長に促した。これに対して金委員長も日朝協議を否定しない姿勢を示したとされる。ただ北朝鮮メディアはその後、「拉致問題は解決済み」と繰り返し、北朝鮮への経済制裁を継続する安倍政権を非難していた。

 日本政府は9月にロシア極東のウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムや米ニューヨークでの国連総会に金委員長が出席すれば、安倍首相との首脳会談を行う機会を探っているが、現時点では困難との見方が強いという。

 拉致問題は、被害者の再調査を北朝鮮が約束した2014年5月のストックホルム合意以降、進展はない。北朝鮮は核・ミサイル開発を巡る日本側の制裁強化に反発し、特別調査委員会の解体を発表。日本政府が拉致被害者に認定している安否不明の12人に関して「8人死亡、4人は入国が確認されていない」と主張し、日本側はこれを受け入れていない。北朝鮮の主張をどう崩すのかが課題だ。

 北朝鮮は日本が独自に実施している制裁の緩和を求めているとも伝えられる。しかし拉致問題への基本的な対応が変わらない中で、安易な譲歩はすべきではない。

 安倍首相は米朝会談後、拉致問題について「最後は私自身が金委員長と向き合い、首脳会談を行わなければならない」と述べた。ただ首相はこれまで北朝鮮との対話路線を強く否定してきただけにハードルは高い。

 02年の日朝平壌(ピョンヤン)宣言は拉致、核、ミサイル問題の解決とともに、国交正常化後の日本からの経済協力を盛り込んでおり、双方にとって利益のある内容だ。拉致問題の打開には、平壌宣言の意義の再確認を通じて、交渉のパイプを確立していく、地道なアプローチが必要ではないか。

2018年8月8日 無断転載禁止