時空を超えた世界旅行

 「時代を超えた世界旅行をした気分になった」。松江市の島根県立美術館で開かれている「東京芸術大学クローン文化財展」を鑑賞した人の感想が本紙に載っていた。実物そっくりに作った像や絵を集めた展覧会の魅力を的確に表現した言葉だ▼旅の出発点は奈良の法隆寺。国宝の実物は金網越しにしか見られないが、会場の釈迦三尊像には触れることもできる。仏教美術の傑作とされる金堂壁画は約70年前の火災で焼損する前の姿を再現した▼海を渡って、北朝鮮の高句麗江西大墓や中国の敦煌莫高窟の展示室は、古墳の玄室や石窟をそのまま再現。この空間に身を置くと、美術館内であることを忘れてしまいそうだ。アフガニスタンに足を延ばして、爆破されて現存しないバーミヤン東大仏天井壁画を見上げる▼人類が残した貴重な文化財に見入り、触れながらシルクロードの旅を疑似体験。米ボストン美術館の秘蔵浮世絵やパリ・オルセー美術館のゴッホ自画像も並び、まさに世界旅行▼これらの地を実際に訪ねようと思ったら、そう簡単にはいかない。行けたとしても、公開が制限されていたり、文化財自体が失われていたりして見られるとは限らない。会場に並ぶのは、そんな宝物ばかりだ▼暦の上は秋になったが、まだ暑いこの夏、涼しい館内で宝を巡る旅はいかが? クローンを通して文化財の価値を共有し、守り伝えていく-。旅が終わるころには企画した宮廻正明東京芸術大名誉教授(松江市出身)の思いに共感することになるだろう。(輔)

2018年8月9日 無断転載禁止