翁長沖縄県知事の死去/提起した課題を考えたい

 米軍普天間飛行場の沖縄県内への移設に反対し、政府と対立していた翁長雄志沖縄県知事が膵(すい)がんのため亡くなった。11月に予定されていた任期満了に伴う県知事選は9月中にも前倒しされる。県内移設の是非が再び最大の争点となろう。

 自民党県連幹部も務めた保守政治家の翁長氏が移設反対を通じて訴えたのは、沖縄だけの問題ではない。安全保障政策や地方自治などの全国共通の課題について、政府や本土の人々に熟考を求めたのだ。翁長氏が提起した課題に向き合い、真剣に考えたい。

 翁長氏が訴え続けた課題の一つは、沖縄に過重な負担を強いる日本の安全保障政策の在り方だ。

 かつて本土にもあった米軍基地が反基地運動のため沖縄に移され、今では在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中する。だが北朝鮮の脅威を考えた場合、対処の拠点となるのは沖縄より朝鮮半島に近い本土ではないのか。

 中国の軍拡も沖縄の基地強化の理由に挙げられる。しかし進めるべきなのは近隣諸国と友好関係を築く外交努力ではないのか。翁長氏は今年6月の沖縄全戦没者追悼式で「アジア地域の発展と平和の実現」を訴えた。

 米朝首脳会談で安全保障環境が変わる可能性も指摘。7月末の記者会見では「朝鮮半島の非核化と緊張緩和に向けた努力が続けられている」と述べ、日本政府は「平和を求める大きな流れから取り残されている」と指弾した。

 名護市辺野古に大規模な施設を造る基地移設を「新基地の建設」と呼んで反対したのは、こうした情勢認識からだった。その上で「日本の安全保障は国民全体で負担するものだ」と強調した。その言葉を厳しく受け止めるべきだ。

 米軍が絡む事件・事故の続発を受け、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の抜本改定も求めた。沖縄県は米国がドイツやイタリアと結んでいる地位協定を調査、比較し、航空法の適用などで日本に不利な協定となっている実態を指摘する報告書を公表。7月の全国知事会議にも提起した。日米地位協定も全国に共通する課題である。

 二つ目は、地方自治の問題だ。安全保障は国の役割だとしても、基地建設には地元の理解が不可欠だろう。翁長氏は「安全保障のために十和田湖(青森、秋田両県)や琵琶湖(滋賀県)を埋め立てるようなことを、それぞれの地方は認めるのか」と語った。地元の意向が尊重されるべきなのは、基地問題に限らない。

 沖縄では2014年の知事選後も衆参両院の国政選挙の大半で移設反対派の候補が当選している。選挙で示された民意を顧みない政府の対応を傍観していていいのか。

 三つ目は、歴史に向き合う姿勢だ。政府と県が辺野古工事を一時中断して行った15年の集中協議で、菅義偉官房長官は、問題の原点は県内移設を前提とする1996年の日米合意だとした。

 これに対し翁長氏は「基地は戦後、強制収用されて造られた。それが原点だ」と反論した。多くの犠牲者を出した沖縄戦は本土防衛の「捨て石」だったと指摘される。地域の歴史を踏まえない政権の対応に、翁長氏は「日本国の政治の堕落だ」と述べた。その激しい言葉は重く響く。

2018年8月10日 無断転載禁止