三方良しの観光/良質な「地域経営」重要

山陰インバウンド機構代表理事 福井 善朗

 「三方良し」という言い回しがある。江戸時代に行商で活躍した近江商人の心得を言ったもので、三方とは「売り手」「買い手」「世間」のことを指す。

 ここ数年、全国各地がインバウンド(外国人観光客)の急増でにぎわっているが、観光の世界においても「三方良し」の考え方はとても重要だ。ここに言う三方とは「観光客」「観光事業者」「地域住民」のことで、いずれかが欠けても観光地は持続しない。バランスが大事だ。

 「観光客」にとっては当然、魅力的な観光資源が重要だが、観光客が求めるからと言って、受け入れ側に無理を強いてはせっかくの地域の魅力が損なわれることになる。世界遺産登録でいきなり押しかけてくるたくさんの観光客はしっかりコントロールしないと、自然環境はあっという間に破壊されるのだ。

 「観光事業者」には地域との共生が求められる。かつて温泉場の旅館施設が観光客を抱え込もうとするあまり、外に人が出てこなくなった。結果、地域にお金が循環しなくて寂れていった。ビジネスは適正な利益を安定的に獲得することが重要だ。

 「地域住民」の賛同を得ることは大切だ。観光客は地域でもてなさなくては顧客にはならない。施設内の魅力だけではいずれ飽きられてしまうだろう。そのためには、地域住民をその気にさせるための仕掛けが必要だ。

 最近、観光地における「三方」のバランスが崩れ始めてきているような気がする。京都では以前にも増して外国人観光客の姿が目立つようになった。有名な観光施設以外の場所でもよく見かける。

 例えば、街中に残る貴重な「町屋」は彼らにとって格好の被写体だ。格子越しにカメラがのぞく。プライベートの侵害は市民から多くの苦情が出るほど。京のシンボル「舞妓(まいこ)さん」は無理やり写真を撮られたり、着物に触られたりする被害に遭って困惑気味だ。

 また、市内を循環する便利なバスも大柄な外国人が大きい荷物を抱えて乗り込んでくるために、通勤、通学時はひどく混み合ってしまう。京都は東京や大阪と違ってとてもコンパクトな街だ。普通の生活に国内外の観光客が押しかけてきたようなものだろう。住んでいる人にとっては、観光はもはや規制対象なのかもしれない。合掌造りの集落で有名な岐阜県白川郷では、人気の冬季ライトアップイベントがいよいよ入村規制の対象となった。

 国は、インバウンドによる観光消費額の向上を最大の課題に掲げていて、観光客数の増加に加えて着実に成果は上がってきている。一時期の爆買いは落ち着いたものの、日本食や日本文化の体験などのインバウンドビジネスは次々に生まれている。「民泊」のルール化も新しい観光産業をつくっていくことに期待出来そうだ。

 最後の課題は地域住民との連携だ。放っておくと「儲(もう)かる観光」だけに終始してしまう。

 山陰を含め地方のインバウンド観光はこれからだ。であるからこそ「三方良しの観光」を丁寧に進めていくことが重要だろう。山陰インバウンド機構には良質な地域経営(マネジメント)が求められている。

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 ふくい・よしろう 長崎市出身。1980年に近畿日本ツーリスト入社し、国内旅行部などを経て地域振興部を設立。着地型観光の「ニューツーリズム人材養成講座」を各地で運営した。2007年、角川マーケティングとの共同出資で観光開発会社ティー・ゲートの立ち上げに参加。13年に神奈川県観光担当課長に就き、16年から現職。

2018年8月13日 無断転載禁止