自死遺族から得た教訓

 「10年を振り返ると自分の言動に恐ろしさも覚えます」。自死遺族でつくる自助グループの「しまね分かち合いの会・虹」の代表を務める桑原正好(しょうこ)さん(68)から先日届いたメール。「まさか自分が」が連続した10年だったということだろう▼2006年の暮れ、24歳の息子を失った。苦痛と孤独感を抱え切れなくなった頃に知った仙台市の自助グループに出向き、同じ苦しみにあえいだ遺族の前でようやく気持ちを吐き出した。同じ場が身近に必要と、08年8月に立ち上げたのが「虹」▼突き動かされるように立ち回る姿が印象に残る。死者や遺族の尊厳を傷つけるとして「自殺」から「自死」への言い換えを働き掛け、島根県は13年度から全国に先駆けて公文書で自死と表記する。県の自死総合対策会議に遺族が参加することも実現させた▼当初は取材で実名や写真の掲載を断られた。さらけ出すようになったのは自身に巣くっていた死に方への偏見を克服し「同じ思いをする人が出ないよう、自分たちの声を役立てたい」という思いだったという▼遺族が語る死者への思いや人となりを通じ、大切な人がそばにいるありがたさと、死に方より故人の生き方に思いが至るようになったのは、取材を通じて得た大事な教訓だ▼昨冬、川本町であった虹主催のイベントで「自分もいじめられ、死のうと思ったことがある」と打ち明けた男子生徒を、桑原さんは「ありがとう。あんたは親孝行だよ」と抱きしめた。桑原さんの言葉は生徒に温かく響いただろう。(衣)

2018年8月17日 無断転載禁止