貧乏県の計算

 自民党総裁選に出馬表明した石破茂元幹事長の実父の二朗氏は、1950年代から70年代にかけて鳥取県知事を務めた。建設事務次官から知事に転じ、政策の真正面に道路整備を掲げた。古巣の建設省をはじめ霞が関を陳情に回るときは「鳥取県は、日本一の貧乏県でござんして」を枕ことばとした▼県にオカネがないので国から優先的に予算を回すよう催促するあいさつ代わりのようなものだった。筆者が取材した時も「貧乏県」という言葉がよく使われたのを覚えている。貧乏、貧乏とそこまで自虐的にならなくてもと内心思ったが、その言葉は国から予算を引き出すため、周到に計算された印象操作のフレーズであり、鳥取県の道路整備を推進する役割も果たした▼知事を辞めた後、二朗氏は参院議員となり自治大臣も務めたが、父が最も生き生きとしていたのは知事の頃だったと茂氏は回想する▼事実上首相選びと重なる総裁選は石破氏と3選を目指す安倍晋三首相との一騎打ちとなりそうだが、石破氏が頼むのは地方からのうねり。そのために自ら無役となり、地方行脚を続ける中で政策論争を仕掛ける戦略らしい▼父親が知事だったころは「貧乏ですから」と国に泣きつけば何とかしてくれる右肩上がりの時代であり、国政のトップとしては成長果実を地方に配分すればよかった▼しかし今の日本にその余裕はない。利益配分より不利益をどう分かち合うか。その説得の術(すべ)がリーダーに問われる秋の陣。安倍1強に物申す反骨も試される。(前)

2018年8月18日 無断転載禁止