ミスター・ボランティア

 プロ野球・巨人の長嶋茂雄氏が、現役引退後にベンチで采配を振るうようになって、いつの頃からか「カンピューター野球」なる造語が生まれ、しばしば新聞紙面やテレビをにぎわせた▼解釈は人によってさまざま。好意的に受け止めれば、鋭い感性とコンピューターのように蓄積されたデータに基づく意表を突いた戦術。懐疑的になるならば、バントによる進塁といった球界の常識・定石を、まるで無視したかのような第六感頼みの戦法▼いずれにせよ、世間のプロ野球への関心を高めたことは間違いない。現役の記録面では他の選手に及ばなくても、ダイナミックなプレーと勝利にこだわる指揮官の姿が野球ファンの記憶にすり込まれているから、長嶋氏は永遠のミスター・プロ野球▼長嶋氏を形容するのに用いる動物的な勘を、この人も持ち合わせていたのか。大分県の尾畠春夫さん、78歳。山口県の瀬戸内海に浮かぶ島で行方不明になった2歳男児をボランティアで捜索し、土地勘のない地でわずか30分で保護した。それまで警察や住民が3日間かけて捜しても発見に至っていなかった▼捜索方法はシンプルそのもの。「子どもは上に登るもの」。この見立てに沿って男児の名前を呼びながら山に入り、沢の近くで座り込んでいるところを見つけた▼今回の行動原理は長年の人助け活動で得たものという。勘が鋭くなるのは長嶋氏がそうであるように経験値と思考を積み重ねた結果だろう。ミスター・ボランティアによる胸のすく救出劇だった。(泰)

2018年8月19日 無断転載禁止