正直なくば立たず

 「正直、公正」という言葉を与党の有力政治家から聞けて少しホッとした。やっと、との思いもする。自民党の石破茂元幹事長が党総裁選への出馬表明で旗印に掲げた▼本来なら、ごく当たり前の政治姿勢で、それが事実上の首相選びの対立軸になること自体、今の政治が抱える一番の問題点だろう。ただメディアの伝え方は、早くも情勢の優劣に軸足を置いた視点になりつつある▼関心が情勢に集まるのは分かる。が、それでは先を見越して長い物には巻かれた方がいい、との心理を促しかねない。問題の病巣をどうするか。まずは論議の機会にすることが、国民を意識した総裁選につながる▼特に「正直」は、江戸時代から儒教に基づく、いわば「不易の規範」だった。武士道を海外に紹介した新渡戸(にとべ)稲造の解説を読むと「誠」の概念に通じる。「武士に二言はない」の言葉が示すように、当時は嘘(うそ)をつけば死をもってあがなうこともあったとされる▼商人や町人に「正直と倹約」を説いた石門心学の石田梅岩も教えの中心に「正直」を挙げ「正直は無欲から生まれる」と諭した。しかし昨今は、経済成長優先の風潮に押され「倹約」はあまり叫ばれなくなった。「正直」も時代遅れにしていいのかと思う▼今回の総裁選では、憲法改正が視野に入る。国民が、その是非を判断する土台となる国会での論議で「嘘も方便」のような論理がまかり通っては困る。「信なくば立たず」の前に、梅岩の教えを拝借すると、国も「正直なくば立たず」だ。(己)

2018年8月20日 無断転載禁止