障害者雇用水増し/真相究明し再発防止策を

 中央省庁が法律で義務付けられた障害者の雇用割合(法定雇用率)を偽っていた問題で、国税庁や国土交通省など国の行政機関の8割、27機関で雇用水増しが行われていたとの調査結果を政府が公表した。昨年時点で雇っているとされた約6900人のうち3460人は水増しで、実際の雇用率は法定を下回る1.19%だった。

 働く喜びを通じ、障害のある人の自立を支えるのが障害者雇用促進法の理念だ。「経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活で能力を発揮する機会」の実現をうたうが、率先して範を示すべき「官」の背信に、条文がむなしく響く。

 雇用水増しは地方自治体でも発覚が相次ぎ、全容はつかめていない。意図的に数字を操作したのか、法令解釈の誤りなのかも判然としない。政府は第三者の検証チームで調べる方針だが、役所任せにせず、国会での閉会中審査で真相究明に当たるべきだ。

 水増しの陰で働く機会を失った障害者は怒りで言葉もないに違いない。雇用率達成に努めてきた民間企業にすれば、冷や水を浴びせられた思いだろう。国の不祥事が民間の雇用意欲をそぐことにつながってはならない。

 1960年に身体障害者雇用促進法が制定。76年、事業主に雇用が義務付けられた。対象は知的障害に広がり、今年4月には精神障害が加わった。法定雇用率も徐々に引き上げられ、現在は国や地方自治体で2.5%、民間企業で2.2%だ。

 雇用率に算入できる障害者は、厚生労働省のガイドラインでは、身体障害者手帳、知的障害者の療育手帳、精神障害者保健福祉手帳で確認することが原則で、例外的に指定医による診断書も認めている。だが手帳所持の確認を怠っただけでなく、「視力が弱い」などの場合でも算入していたケースが判明している。

 一部の省庁からは「厚労省のガイドラインが分かりにくい」との言い訳が漏れ聞こえ、誤った拡大解釈がまかり通っていたようだが、法令に基づいて業務を執行する公務員の弁とは思えない。一方で、雇用政策をつかさどる厚労省が他省庁を詳しく調査した形跡も見られない。「お上」同士のなれ合い意識はなかったか。障害者団体が「根底に差別意識があったのでは」と疑うのも当然だ。

 民間企業の場合、雇用率に届かないと1人当たり原則月5万円を納付する決まりがあるが、中央省庁にはこうした仕組みはない。省庁の雇用実態をチェックし、不正にはペナルティーを科す仕組みを整えるべきだ。

 そもそも法定雇用率の制度は現状のままでよいのか。例えば難病患者らは手帳の取得が難しく、制度の枠から外れてしまう不備が指摘される。同様の制度を持つドイツでは5%、フランスは6%と日本より高い目標を掲げている。

 宅配便事業の生みの親でヤマト運輸会長を務めた故小倉昌男さんは、障害者福祉にも尽力した。生前、政府の会議に呼ばれ「障害者は能力が劣ると経営者は思いがちだが、実際に雇ってみると、社員に思いやりが生まれ、本業にもいい影響が出た」と語っていた。障害者雇用の理念に立ち返り、真相の究明と再発防止策の確立が急がれる。

2018年8月29日 無断転載禁止