アキのKEIルポ 思い出醸成する名勝負

 錦織圭の2018年全米OP2回戦は、ルイアームストロング・スタジアムのナイトマッチに組まれた。会場で2番目の規模を誇るこのコートは、開閉式屋根を設置し、今年から再稼働。そのコートでのデビュー戦を、錦織は相手の途中棄権ながら勝利で飾った。

 2年前にこのスタジアムが改修工事に入る時、ここで最後の試合を戦い、最後の勝者となったのが錦織。周囲の勝手な感傷だが、錦織との縁は何かと深い。

 錦織とルイアームストロング・スタジアムと言って忘れられないのが、08年3回戦のフェレール戦だ。当時18歳の無名の少年が、繊細かつ大胆なテニスで世界4位に勝利し「絹のように舞う」と地元紙に称賛されたのもこのコート。それから10年…、36歳を迎えたフェレールは、今大会をキャリア最後のグランドスラムに定めた。

 その報を錦織は「ここ最近で一番ショックな出来事」として受け止める。「自分を育ててくれたというか、一番のライバルであり模範であり、目指すべき選手だったので。ショックですね、こういう強い選手が引退するのは…」。珍しく感傷的に彼がポツリとつぶやいた。

 踏破した名勝負が多いほど、醸成される思い出も深みを増す。コートを去る選手の哀愁も、棄権した相手の涙も編み込みながら、錦織は新たな物語を紡いでいく。

 (フリーライター・内田暁)

2018年9月1日 無断転載禁止