庶民の敵と呼ばれても

 「庶民の敵」と呼ばれ、テレビのワイドショーに追い掛けられたこともある。先月下旬、膵臓(すいぞう)がんで亡くなった政府税制調査会の元会長で経済学者の石弘光氏。複雑な税の仕組みを分かりやすく説き明かし、所得税増税のため「サラリーマンに頑張ってもらわないと」と語ったことが「庶民の敵」とされた▼筋金入りの財政再建派。ということは増税派でもあり、増税を嫌う政治家からは煙たがられた。政府税調会長の時に税収を増やすため、サラリーマンらに適用されている配偶者控除などの縮小を提言したところ「サラリーマン増税だ」と世論の袋だたきに遭ったこともある▼嫌われ役を任じたが、学者の良心として言うべきことは言う。財務省の代弁者と言われても、国民に増税の痛みを求める以上自らも政府税調会長を無報酬で務めた▼石氏が一橋大学教授だったころ、著書の「ケインズ政策の功罪」を読んだことがある。不況時には公共事業を増やして失業者を減らすべきだ、というケインズの考え方が日本では都合よく解釈、利用されていると嘆いていた▼ケインズ政策が財政赤字を拡大させる現状に警鐘を鳴らし、景気が回復したら健全財政に戻すのが本来のケインズ理論と主張した▼総論すっきり、各論モヤモヤ。総論は石会長時代の政府税調、各論は与党税調の税制論議に重なる。政府税調の筋論が与党税調でいろんな利害にもまれて複雑怪奇な姿となる。本当の庶民の敵は誰なのか。硬骨のご意見番が言い残したかったに違いない。(前)

2018年9月3日 無断転載禁止