嫡出否認訴訟/法改正へ検討の加速を

 生まれた子との親子関係を否定する「嫡出否認」の訴えを夫にのみ認める民法の規定は憲法違反とし、神戸市の女性らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は控訴を棄却した。その上で、この規定などが原因となり後を絶たない無戸籍問題を巡り「種々の要因を踏まえた、国会の立法裁量に委ねられるべきだ」としている。

 原告の女性は60代。1980年代に暴力を振るう夫と別居し、離婚成立前に別の男性との間に娘をもうけた。しかし「婚姻期間中に妊娠した子は夫の子と推定する」との民法の規定で、元夫の子とみなされるのを避けるため出生届を出さず、まず娘が、続いて孫2人も無戸籍となった。

 戸籍がないと、住民票やパスポートを持てないなど、さまざまな不利益を被る。とはいえ、嫡出推定を覆す否認の訴えは夫にしか起こせない。この女性の場合は前夫が亡くなって実父による認知が可能となり、ようやく2年前に無戸籍の状態を解消できた。離婚や再婚、家庭内暴力が増え続ける中、このような問題は広がりを見せている。

 嫡出否認の訴えを妻や子にも起こせるようにする、父親の欄が空白の出生届を受け付ける-など多くの提案がなされてきたが、国の動きは鈍かった。法務省は近く嫡出推定規定などを見直す有識者の研究会を設置する。判決を踏まえ、法改正の検討を加速させる必要がある。

 この訴訟で原告の女性や娘、孫の側は「妻や子どもも訴えを起こせるよう法改正されれば、無戸籍は避けられた」と主張した。判決はまず夫にのみ嫡出否認が認められている点について「夫が嫡出推定により形成される父子関係の当事者で、扶養義務を負うなど直接の法的権利義務関係が生じるからだと解される」などとし「一応の合理性がある」と指摘した。

 一方で、嫡出否認権を行使できないことで妻や子が夫・父から不当な要求を受けるなど不利益を受けることもあり得るとし、現行の制度に合理性があるからといって、妻や子に嫡出否認権を認めることが不合理となるものではないと述べた。

 ただ「妻や子に嫡出否認権を認めることで無戸籍となるのを防ぐことができるのは一部にすぎない」とした上、戸籍や婚姻、嫡出推定など家族制度を巡る制度全体の中で解決を図るべき問題であるとの考えを示した。

 国会に抜本的な改革を促したともいえる。今回の訴訟で焦点となった民法の嫡出否認や嫡出推定、さらに女性の再婚禁止期間の規定は無戸籍問題の背景として国会でも何度となく取り上げられてきた。このうち再婚禁止期間は2016年に6カ月から100日に短縮されたが、あと二つの規定は手つかずのままだ。

 いずれの規定も明治時代に定められ、今の民法に引き継がれた。ただ家族の在り方は時代とともに変わる。女性の社会進出で晩婚化が進み、離婚や再婚も増えた。DNA鑑定よる親子関係の判定も広く普及した。「家制度」を前提にした規定の根拠は急速に色あせている。

 法務省によると、無戸籍者は8月時点で715人。氷山の一角ともいわれる。問題を先送りせず、救済に本腰を入れるときだろう。

2018年9月3日 無断転載禁止