アキのKEIルポ 元王者に重ね己を鼓舞

 3回戦のシュウォーツマン戦後のことである。マイクを手にしたオンコートインタビュアーが、満面の笑みをたたえて尋ねた。「昨年は手首をけがし、復帰後はチャレンジャー(ツアーの下部大会)からのスタート。ここまで戻れると信じていた?」

 3時間20分の熱戦を終えたばかりの錦織は、日焼けの赤み射す相貌に、笑みを広げながら答える。「もちろん、少しは疑いもした。最初のうちは思うようなプレーもできなかったし…」

 そうだった。わずか7カ月前の彼は、チャレンジャーの初戦でランキング200位台の選手に敗れていたのだ。ともするとその事実を忘れかけるのは、今の彼がいかに“かつていた場所”へと戻ってきたかを示している。

 復帰後の錦織は、事あるごとに「強い気持ち」の言葉を繰り返してきた。試合中には意識的にガッツポーズを繰り出し、自らを奮い立たせるキーワードをつづったノートを、コートに持ち込むバッグに忍ばせてもいる。

 ウィンブルドンの時には、ジョコビッチが己を鼓舞する姿を見て「けがをした後は特に、あのような姿勢が大切だと思う」と、完全復活を果たした元王者に自身を重ねもした。

 けがが彼から奪った物は、決して小さくはない。だが、得た物もまた大きい―。ニューヨークで戦う錦織は、そんなことを見る者に感じさせてくれた。

(フリーライター・内田暁)

2018年9月4日 無断転載禁止