就活ルール廃止提案/慎重な議論を求めたい

 経団連の中西宏明会長は、大手企業の採用活動の日程を定めている経団連の指針を2021年卒業の学生から廃止すべきだとの考えを示した。現在の就活ルールが形骸化しているのは事実だが、競争激化で学業への影響が心配される上に、日本型雇用全体の変化につながる可能性もある。慎重な議論を求めたい。

 提案通りに就活ルールが廃止されると、20年に大学4年生となる現在の2年生からが対象となる。採用活動の自由化により優秀な学生を採用したい企業は採用活動の前倒しをするなど競争が激しくなるのは確実。学生と大学に大きな影響が出ると予想される。

 中西会長は個人的見解とした上で「採用日程に関し、経団連が采配すること自体に極めて違和感がある」と述べた。しかし、榊原定征前会長は「勝手にやり放題では問題がある」と就活ルールの意義を強調していた。20年は東京五輪・パラリンピックの開催で会社説明会の会場が不足することが背景にあるとみられるが、急な方向転換で、唐突さは否めない。

 経団連の採用指針は、加盟企業を対象に大学生と大学院生に対する会社説明会や面接の開始時期などを定めている。学業への影響を考慮し、企業の足並みをそろえるのが狙いだが、罰則はなく、ルールを守らない企業が少なくない上に、しばしば変更され、学生は翻弄(ほんろう)されてきた。

 経団連の現在の採用指針は17年の卒業生から始まり、会社説明会の解禁を大学3年生の3月1日、面接や筆記試験の選考活動を4年生の6月1日、正式内定を10月1日の解禁と定めている。この指針は現在の3年生が卒業する予定の20年春まで適用される。

 しかし、この指針は有名無実に近くなっているのが実態だ。経団連の会員企業でも、解禁前から実質的な採用活動に入り、内定を出す企業がかなりの割合を占める。経団連に加盟していない外資系企業などは当然、早い時期から採用活動を始めて人材を獲得している。このため会員企業からは日程の前倒しを求める声が出ていた。

 だが、就活ルールが廃止されるとすれば、これまでのルール変更とは次元が異なる。最も懸念されるのは学業への支障が大きくなることだ。今でも4年生の6月は通常の授業期間だ。3年生時のインターンシップ(就業体験)が選考活動の入り口という企業もある。これが2年生か3年生から始まれば、勉強どころではなくなる学生も出る。

 今回の提案は大手企業の採用活動の都合を優先している印象が強いが、学生の本分である学業を軽視してはならない。就活ルールを廃止するなら、経団連は学業に関する懸念に応える方策を検討するべきだ。例えば授業のある平日には採用活動を行わないなどのルールも考えられる。

 大手企業の動向を見ながら採用活動をする中小企業の人材獲得が困難になることも予想される。中小企業への目配りも忘れてはならない。

 就活ルールが廃止されれば、新卒一括採用や終身雇用を柱とする日本型雇用慣行を見直すきっかけになるかもしれない。経団連は大手企業だけではなく、学生、大学、中小企業などの声を広くくみ上げ、結論を急がずに議論を進めるべきだ。

2018年9月5日 無断転載禁止