元気の素が詰まっている

 建前や格好にとらわれない普段着の文章には力がある。その分、書くのは難しい。先日、53歳の若さで亡くなった漫画家さくらももこさんは、そんなエッセーの書き手だった。「現代の清少納言」と言われたのもうなずける▼さくらさんがつづる子ども時代からのエピソードはいつも等身大。怠け者でお調子者だった自らの失敗や悩み事などを「自虐ネタ」風に面白く脚色し、時にはここまで書くのかと思うほどの「毒舌」も▼内容は誰にでも経験がありそうな日常。漫画の主人公「ちびまる子ちゃん」さながらに夏休みの宿題を、家族を巻き込み最後の3日間でやる作戦や、子どもにとって気になるウンコやオシッコの話題。成長してからは、自身が水虫や痔(じ)と格闘する話も出てくる▼独特の観察眼は家族にも向けられる。漫画の中でいい味を出している父ヒロシは「たよりなく、とりえもないが、にくめない男」と書く一方、「根底に流れる家族への想(おも)い」をきちんと感じ取っていた▼いつもまる子の味方になる漫画の祖父は、実は理想像。実際は「ろくでもないジジィ」と家族に嫌われていて「口を開けたまま」の臨終の場面では、常識的な描写に縛られず「ムンクの叫びだよ」と西洋絵画に例えた▼「王様は裸だ」と遠慮なく叫んだ童話の子どもの視線を思わせ、責められない。さくらさん流のものの見方をすれば、どんな失敗や悩み事もいつか平気になる。だから、ありのままでいい。そう感じさせる作品には「元気の素(もと)」が詰まっている。(己)

2018年9月10日 無断転載禁止