自民総裁選・憲法改正/論議の重要な分岐点に

 自民党の総裁選は、安倍晋三首相(総裁)と石破茂元幹事長による演説会と共同記者会見が行われ、憲法改正や経済政策、政権運営などを巡り本格的な論戦が始まった。

 両氏の見解の相違が鮮明になったのは憲法改正だ。首相は「憲法にしっかりと自衛隊を書き込む」と強調。秋の臨時国会に党改憲案の提出を目指す意向を表明した。

 一方の石破氏は、9条改正に関して「国民の理解がないまま国民投票にかけてはいけない」と慎重な考えを強調。「緊急性の高いものから先に行う」と、参院選の「合区」解消と大災害時の緊急事態条項新設を優先課題に挙げた。

 首相は次の3年間の総裁任期中に改憲を実現する意欲も表明。「条文イメージ」の位置付けにとどまっている党憲法改正推進本部の改憲4項目の条文案について、公明党など他党の理解を得ていく考えを示した。

 総裁選で圧勝すれば、自らの改憲方針が正式に承認されたとして秋の臨時国会から改憲実現に向けて本格的に動く考えだろう。

 だが石破氏が一定の票を獲得すれば首相も軌道修正を迫られる。総裁選は今後の改憲論議にとって極めて重要な分岐点となる。期間は短く、討論の機会は限られるが、徹底した論戦を求めたい。

 ただ、その前に根本的な疑問がある。首相が意気込むほど改憲は喫緊の課題なのかという点だ。共同通信が8月下旬に実施した電話世論調査では「次期総裁に期待する政策」の上位は「景気や雇用など経済政策」38.6%や「年金、医療、介護」36.4%で「改憲」はわずか7.4%の8番目でしかない。改憲案の早期国会提出には「反対」が49.0%と「賛成」の36.7%を上回っている。

 総裁選で投票権を持つ党員・党友は約104万人。全有権者の1%弱にすぎない。内輪の党首選の結果を受けて改憲論議を急ぐなら、一般国民の意識との乖離(かいり)が広がる。

 両氏の主張する改憲案も議論を深めるべき内容のものだ。首相は戦力不保持を定めた9条2項を維持したまま自衛隊を明記する「加憲案」を主張し、自衛隊の任務や権限は何も変わらないと説明する。だが野党は2項が事実上「死文化」し、集団的自衛権行使の全面的な解禁につながると批判している。

 石破氏が優先課題に挙げる緊急事態条項は、立法措置に基づかない政令による権限強化を内閣に認めるもので、乱用による過度の私権制限の懸念が指摘される。参院選の「合区」解消も、自民党は先の通常国会で参院定数6増の改正公選法を成立させており、改憲よりも目先の対応策を優先させたのではないか。

 9条に関して今回、出馬を見送った岸田文雄政調会長は「現行憲法でも自衛隊は合憲だと理解している」と改正に慎重な考えを示したことがある。かつての自民党には、こうした考えの議員が一定程度いたはずだ。

 総裁選では、国会議員の投票を派閥が縛ろうとしているが、国家の根幹に関わる憲法の議論を拘束すべきではない。各議員が自由に意見を表明する場を設けてはどうか。自民党は自負する「国民政党」の幅の広さを持っているのか。憲法論議を通じて見極めたい。

2018年9月11日 無断転載禁止