不断の努力

 「魔獣がうめいてのたうちまわり、鉄(かね)を産もうともがいている」。直木賞を受賞した作家の山本兼一さんが著した歴史小説「いっしん虎徹(こてつ)」の冒頭に、たたら製鉄が登場する。たけだけしい炎は八岐大蛇(やまたのおろち)に見立てられる▼舞台は、奥出雲。江戸時代に鉄師を務めた櫻井家のたたら場だ。実在の刀工・長曽祢(ながそね)虎徹を題材にした作品では、櫻井家と同家の鉄が重要な役割を果たす。山本さんは実際に奥出雲を訪れ取材しており、躍動感あふれる文章で物語に引き込まれる▼奥出雲町は今も、たたらの炎を受け継ぐ。その技術で造られ、日本刀の原料となる玉鋼を材料にした作品を、地域ブランドとして認証する最初の製品が選ばれた▼和包丁の「天叢雲(あめのむらくも)」や、剣を題材にしたペンダントトップ「草薙(くさなぎ)」など13点。刀匠や鍛冶職人、デザイナーらが連携して、2年がかりで仕上げた。新たな商品開発と全国への情報発信につなげる。ペーパーナイフは、急増している外国人観光客にも受けそうだ▼たたらブランドは、長期的に伝統工芸や農産物にも広げていく。町はたたらに伴い造られた棚田の日本・世界農業遺産認定を目指している。既に1次審査に合格し、今月内に現地調査がある。認定を仁多米のブランド化促進と生産者の所得向上に生かす▼裾野の広いたたらの遺産を受け継ぐだけでなく、新たな視点と感性で磨きをかけていく。地域資源の価値を高める不断の努力の大切さは一心不乱に鉄と格闘し、優れたものづくりに打ち込んだ虎徹の姿と響き合う。(道)

2018年9月14日 無断転載禁止