琴ヶ浜のロマン

 心が癒やされる音は健在だった。歩くと「キュッキュッ」と聞こえてくる。大田市仁摩町馬路の琴ケ浜は、国内有数の鳴き砂海岸。海風が吹き、波頭が砕ける。潮の匂いをかげばストレスは瞬時に消え去る▼2017年10月に国の天然記念物に指定された。同町の大田市立仁摩図書館で、指定1周年を記念する企画展が開かれている。浜に漂着した貝を利用したアートも飾られ、ほほ笑ましい▼長さ1.4キロの弓なりの浜は、地元で鳴り砂と親しまれ、日本の音百選・渚(なぎさ)百選にも選ばれている。企画展から、琴ケ浜が鳴き砂海岸として国内でも珍しく、大切な環境を保っていることが分かる▼鳴るのは、清浄な石英が摩擦して音を発するから。砂浜に石英が多く、潮流や波風によって砂が洗浄されるといった、六つの条件が整うのが必要だ。茶わん1杯の砂に耳かき1杯のチョークの粉を入れただけで鳴らなくなる。地域の清掃活動があればこそと思う▼琴ケ浜海岸の西側は世界遺産・石見銀山遺跡のエリアになっている。銀を産出した仙ノ山から最短距離の港・鞆(とも)ケ浦が銀山が開発された当初、銀の積み出し港として利用されていた▼石見銀山旧記には鞆ケ浦一帯が銀鉱石を買い付けようとした船でにぎわった様子が登場する。外国船も入港していたとみられる。東アジアから銀を目指し海を越えた人々が、地元の商人らと出会った際にどうしたか。言葉は通じずに琴ケ浜の砂に文字や絵を描き、意思疎通を図ったのではないか。そんな想像を膨らます。(道)

2018年10月10日 無断転載禁止