世事抄録 東京仁多会

 毎年、東京では首都圏に暮らす島根出身者の県人会や市郡の会、出身高校の会が開かれる。間もなく開催される東京仁多会は今年で69年目。黎明(れいめい)成長期は将来への大志と望郷の場であっただろう。経済成長は多くの出会いをもたらし、私も青年の頃は会に参加しなかった。それでも、悩みにぶつかると故郷をしのんだ。田舎の友と話す電話機など部屋にはない。そんな時、新宿ゴールデン街に出かけた。

 3坪もない飲み屋が300軒弱連なる木造長屋。飲み代も高くけんかの多い街に誘われたのは、客の知識人も役者も美人のママもバイトの娘も地方出身者だったからだ。生い立ちも過去も語らず現在と未来を議論する。殴り合いにもなった。それは安易に東京に同化したくない意思であり、どう生きるかの、地方人のアイデンティティー確認の場であった。今は外国人観光客であふれ、地方の薫りも激論の場も消えた。

 来春、社会人や学生として上京する諸氏、異動する諸氏。時代は世界的規模での格差や貧困、自然破壊などの課題を抱え、島根も限界集落や観光事業など知恵を絞っている。

 そこで郷土の会に参加し語りませんか。皆さんの新鮮な情念と夢に、私たちの思い、時代の要求を合わせ、温故知新と創意ある場とし、故郷や他の地域との懸け橋になりませんか。「待っちょうますけん」

 (埼玉県在住、島根県奥出雲町出身・鬼灯)

2018年11月8日 無断転載禁止