鍋がいい

 立冬が過ぎ、鍋物の季節になった。冬の味覚・ズワイガニ漁も始まっている。これから白菜も甘味が増す。豆腐も欠かせない。締めに入れるうどんや食材のうま味が出た残り汁に、ご飯を入れて味わう雑炊も格別だ▼鳥取で勤務した頃は、当時は水ガニと呼んでいた脱皮直後のズワイガニや雌の親ガニをよく鍋にした。カニはおいしい半面、身を取るのに忙しく会話が途切れがち。が、それは贅沢(ぜいたく)な悩み。最後に溶き卵と三つ葉を散らした雑炊が何とも言えない。来季以降は、漁獲量が減るとの予測もあり、心配だ▼日本は鍋物王国で、何百種類もの鍋があるという。定番の水炊きや寄せ鍋にもつ鍋、近年は豆乳鍋やトマト鍋、カレー鍋もある。海と山の食材に恵まれたことに加え、囲炉裏(いろり)や箸を使う文化、醤油(しょうゆ)や味噌(みそ)などの調味料のおかげらしい。発酵学で知られる小泉武夫さんお薦めのサバの水煮缶を使った鍋も手軽でいい▼2度経験した単身赴任時代は土鍋が必需品だった。毎日外食やコンビニというわけにはいかない。週に何度か取り組んだ男の料理の定番は季節を問わず鍋だった。鍋の残りに味噌かキムチを入れて具を継ぎ足せば、2日目はまた違った味になる。単身赴任の知恵だ▼そのせいか今でも夕食は何がいいか尋ねられると、答えはいつも「鍋」。すると鍋物に食傷気味の家人曰(いわ)く「うちは相撲部屋じゃありません」。でも鍋がいい。(己)

2018年11月20日 無断転載禁止