さわやか青年とやくざ

 松江市出身の俳優、三上真一郎さんが亡くなっていた。享年77歳。今年7月誤嚥(ごえん)性肺炎のため、長野県松本市の高齢者施設で息を引き取ったが、そっとしておいてほしいとの遺志で発表されなかった。死去が報じられたのは、今月に入ってからである▼若い頃はさわやかな青春スター、長じてはダーティーなやくざなど幅広い役柄を演じた。脇役に控えることが多く恋愛ストーリーでは、ちょっぴり軽くて最後はライバルに競り負け、振られるトホホ役が憎めなかった▼小津安二郎監督にかわいがられ、小津の遺作となった「秋刀魚(さんま)の味」では嫁いだ姉に代わって「俺がめし炊いてやるから」と父親を励ます名せりふを残した▼先立たれた妻に代わって、身の回りの世話を任せていた娘を嫁がせる父親の複雑な心境を作品は描く。負い目を感じてきた娘に親としての責任を果たした安堵(あんど)感の一方で明日からどう暮らせばよいのか、途方に暮れる父親。姉を母親代わりにしてきた末っ子役の三上さんも同じ立場ながら、不安をあっけらかんと吹き飛ばすように男同士でやっていけるよと父親を励ます声は、自分にも向けられていたようだ▼東京の高校在学中にデビューしたが、松江との関わりはつまびらかではない。巨匠の小津を追慕する自身の著書に「縁と浮き世は末を待て」と人生訓。角刈りが似合った往年の好青年と松江との縁をもっと知りたかった。(前)

2018年11月29日 無断転載禁止