味をしめられたら

 初冬になってもたわわに実をつけている柿の木を見掛けるが、一本の柿の木に一体何個ぐらいの実がついているのか。島根県吉賀町の鳥獣対策専門員の金澤紀幸さんが、町内の民家の庭にある柿の木の実を一個ずつもいで調べた。その数1187個。柿の木もいろいろだが、素人目にはせいぜい100個程度と見受けられる。「まさかこんなにあるとは」と金澤さんも驚く▼庭木なので、実を出荷して売るわけでもなく自然の成り行きに任せている。放っておいてこれだけ収穫できれば効率果樹経営のお手本となりそうだが、人間に消費される代わりに山から下りてきたクマやサルの絶好の餌となっている。放任果樹と呼ばれるそうだ▼同町内では近年ツキノワグマの目撃情報が頻繁に寄せられ、一昨年は過去最多の42頭を捕獲。道路で見掛けることもあり、人への危害が心配される▼民家の柿の味をしめたクマは、繰り返し人里に下りてくるようになる。山と里の境に収穫されないまま放置されている果樹は特に狙われやすい▼金澤さんの観察ではツキノワグマがニホンジカを襲って食べるという。シカも農林作物を食い荒らすが、クマがシカを捕食することによってシカの増殖を抑えている。クマが減ればシカ被害が増える可能性も。山では動物界の天敵を利用し、里では柿もぎに人手を惜しまない。豊饒(ほうじょう)な柿の木は、人にとってそうでありたい。(前)

2018年12月4日 無断転載禁止