耳の記憶、舌の記憶

 鳥取県日野町金持(かもち)地区で正月恒例の獅子舞を取材した。「トントトントン、トントン」と軽快な太鼓に合わせ「ハッ」と掛け声を上げるリズムの繰り返しが頭に染み込み、回すように体をくねらせる獅子のシンプルな動きと相まって、一目で心引かれた▼地元の金持青年会が40年近く続ける風物詩。かつて20人を超えた青年会員は少子高齢化で5人にまで減り、年配の会員OBが加わり継承しているとのことだが、印象深いリズムは地元の若者の心にすり込まれるに違いない▼筆者はかつて浜田市に赴任し、石見神楽のファンになった。衣装や舞の魅力もさることながら、あの囃子(はやし)に誘われる。薬学博士・池谷裕二氏の著書「記憶力を強くする」によると、耳の記憶は目の記憶より心に残る。古代人が祭事など大切なことを歌に託して子孫に伝えたのはそのためだという▼茶わん蒸しに春雨を入れる鳥取県中部、西部や島根県東部の文化を取材する中でも、似た話を聞いた。島根県立大看護栄養学部の中畑典子講師いわく「帰巣本能を高めるのは慣れ親しみ、ここでしか食べられない料理」。山陰両県から若者の流出が続く中、歯止めをかける鍵は地域、家庭の料理にあるというわけだ▼耳の記憶にも舌の記憶と同様に郷愁を誘う効果があるはず。「帰ってこいよ」と言わずとも帰りたくなる。心に刻まれる古里の音、古里の味を見直し、次代に伝えたい。(志)

2019年1月7日 無断転載禁止