「いただきます」の思いを

 60年前の1月14日。2匹の樺太犬が、人間がいない極寒の地で約1年間も生き延びていた知らせは、国内外で大きな感動を呼んだ。映画「南極物語」にもなったタロとジロの話だ▼見つかった時、2匹は丸々と太った子熊のようだったが、近くにあった数カ月分の餌は全く手付かず状態。鎖につないだ首輪を抜けて、アザラシの糞(ふん)やペンギンを食べていたのでは、とされている▼しかし、その前年、犬ぞり用の15匹を、長さ100メートルのワイヤロープに数メートル間隔でつないだまま置き去りにする「苦渋の選択」をせざるを得なかった際は、国内外から厳しい非難を浴びた。南極観測隊員の留守宅にも嫌がらせの電話がかかったという▼生き物の命に関わる話題は時としてセンセーショナルになる。身近な動物だったり、注目されたりする場合はなおさらだ。捕鯨を巡る日本の対応も、世界からどう映るか気になる。長らく魚扱いだった歴史があるとはいえ、伝統的な食文化を強調すれば、アジアに残る犬肉料理なども一概に批判できなくなる▼『清貧の思想』で知られる作家の中野孝次さんは、愛犬と暮らした13年を綴(つづ)った『ハラスのいた日々』で「自分の思いを伝える言葉を持たぬ存在」である生き物の身になって想像することの大切さに触れていた。食文化を守り続けるのなら、せめて他の命に対し「いただきます」の思いを忘れてはなるまい。(己)

2019年1月13日 無断転載禁止