ペンと乳(35) 1人で初遠出(上)

熟睡できず朝を迎える

 夜、眠りから覚めかけたとき、ふと空気が冷えているなと感じ「子にはちゃんと布団がかかっているかな」と無意識に手を伸ばしたが、そこには誰もいなかった。「そっか、今日は1人だった」。いつの間にか「母」っぽくなっている自分のしぐさにちょっと感心し、また眠りについた。

 子が1歳になる直前のこと。友人の結婚式があり、1人で上京した。まだ休日や夜間は頻繁に授乳をしていたし、出産後1年間、1日も離れて過ごしたことがなかった母子にとって初めての経験。不安もあったが、いい機会なので、夫に留守番を頼んで、夜行列車で出かけることにした。

 1年ぶりに1人の夜。ぐっすり眠れるかと思っていたが、30分から1時間おきに目が覚めてしまう。時計を見ると午前3時。「2人はどうしてるかな」。大泣きする子を抱え、暗闇をうろうろする夫の姿が頭に浮かんだ。離れているから心配してもしょうがない、と諦めて寝ようとしたが、なかなか寝付けなかった。

 最後に授乳したのは、家を出た午後6時ごろ。ちょうど12時間が経過し、乳もだいぶ張って痛くなってきていた。持参した搾乳器で少し搾っておいた。

 窓の外が明るんでくると少しほっとした。赤ちゃんと向き合っていてつらい時間帯は、断トツで夜中だからだ。自分も眠いのに泣きやまない子ども。外も暗く、助けてくれる人もいない…。この世に赤ん坊と自分の2人きりのような気持ちになる。朝がくれば、気持ちも少し落ち着く。そんなわけで、夫と子にも朝がやってきているはず。私は1人を楽しもう。気持ちを切り替えることができた。

 その後、夫から子の写真が携帯に送られてきた。泣き腫らしたようなまぶたに、汗ばんだ髪の毛をしたわが子が、機嫌良さそうに笑顔で写っていた。「こりゃ、だいぶ泣いたんだろうなぁ」。夫の深夜の労をねぎらいつつ、苦笑いした。

2019年3月23日 無断転載禁止