欧州議会選で懐疑派拡大/批判を糧にEUの刷新を

 欧州連合(EU)が加盟28カ国の4億人を超える有権者から審判を受ける欧州議会選で、親EUの中道右派、中道左派二大会派合わせた議席が過半数を割る一方、EUに懐疑的な諸会派が初めて3割超を獲得する見通しとなった。

 選挙結果が表すのは、EUの政策に対するEU市民の批判の拡大だ。だが英国がEU離脱を決めた2016年の国民投票のように、今回の選挙で「反EU」が勝利を収めたわけではない。全議席を見渡せば、親EU派は依然安定的な多数を占めている。今後EUがなすべきことは、選挙で示された批判に耳を傾け、EUの在り方や政策を刷新していくことだろう。

 欧州議会が今年春にEU全域で実施した世論調査によると、議会選の争点としてEU市民の関心が高かったのは「移民問題」や「テロ対策」以上に「経済成長」と「失業問題」だった。

 経済のグローバル化の進展で、どの国でも中間層の所得が伸び悩み、工場の国外移転などによる失業で貧困に転落する不安が広がる。昨年末に始まったフランスの「黄色いベスト運動」は、そうした不安に無頓着な政府への怒りを表していた。

 EU懐疑派各党は、格差拡大の原因を各国の個別事情を軽視する「EU支配」に転嫁し「自国第一主義」を有権者に訴えて支持を伸ばした。今回の選挙で第1党になったフランスの極右、国民連合(RN)やイタリアの与党右派「同盟」の主張を要約すれば「EUをより弱く、国家をより強く」ということだ。

 だが自国優先の主張は必然的に各党の連携を阻む矛盾を抱える。ロシアの脅威を間近に感じるスウェーデンの極右、民主党は、ロシア政権と親しい関係にあるイタリアの同盟とは距離を置く。EU懐疑派は一枚岩にはなれない。

 議会選で目立ったもう一つの特徴は、既成二大会派の退潮とともに、会派の細分化が進んだことだ。EU懐疑派のほか環境保護派や中道の欧州自由民主連盟系の会派も議席を伸ばし、主要会派だけで五つが分立する状況となった。

 既成二大会派による議会運営は過去のものとなる。国境管理、難民保護の割り当て、気候変動対策など重要な議題ごとに各会派が合従連衡する局面が増えるだろう。

 EUは今年後半、ユンケル欧州委員長の後任の選出が焦点となる。欧州議会選で第1党を維持した中道右派の新委員長候補が有力だが、決定までは曲折も予想される。会派の細分化は、意思決定を複雑化、長期化させると懸念されている。

 一方で、こうした細分化は有権者の関心や利益がより反映された結果であり「EUの健全な発展に資する」と前向きに捉える識者もいる。

 今回の欧州議会選の推定投票率は50%超で、2014年の前回(約43%)より7ポイント以上上昇した。過去20年で最も高い。英国のEU離脱などで関心が高まったことも一因だが、懐疑派を含め投票でEUを改革できるという意識の変化もあろう。

 欧州議会は近年、立法手続きやEU予算の決定、欧州委員長の選出などで権限が強化されてきた。選挙での批判の広まりや会派の細分化は、EUに民意が反映される領域が広がったことにもなり、EU変革のチャンスでもある。

2019年6月1日 無断転載禁止