改正刑訴法全面施行/改革はいまだ道半ばだ

 改正刑事訴訟法と改正通信傍受法が1日に全面施行された。いずれも2010年9月に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件という前代未聞の不祥事をきっかけとして法相の諮問機関・法制審議会の特別部会で議論され、法制審答申を踏まえ16年5月に成立。段階的に施行されてきた。刑事司法改革は一つの節目を迎える。

 今回の施行で改正刑訴法により、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で取り調べ全過程の録音・録画による可視化が義務付けられる。ただ09年の裁判員制度導入前から検察、警察とも可視化を始め、順次拡大。今では義務化される事件のほとんどで実施しており大きな変化はない。

 一方、通信傍受を巡っては傍受現場に通信事業者に立ち会わせる必要がなくなり、捜査に活用しやすくなる。また容疑者や被告が他人の犯罪捜査に協力する見返りに自らの刑事処分を軽くしてもらう司法取引制度も同じ法制審答申に盛り込まれ、昨年6月に導入された。しかし可視化や新たな捜査手法も含め、改革はいまだ道半ばだ。

 特別部会では証拠開示の在り方も議論され、検察に証拠リストの開示が義務付けられた。とはいえ、再審における証拠開示については結論が棚上げされたままだ。改正法の適正な運用を図りながら、改革を前に進める必要がある。

 全国の検察庁は17年度に裁判員裁判対象事件の98.4%に当たる2583件、独自捜査事件は全83件で全過程可視化を実施した。警察の全過程可視化も18年度、裁判員事件の87.6%、2860件に上った。ただ冤罪(えんざい)防止のため、任意捜査や裁判員事件以外への拡大を求める声は根強い。

 運用の課題もある。検察は特別部会では供述が得にくくなると可視化に反対したが、試行を重ねる中で積極活用に転じた。調書に記された供述の任意性を立証するのが可視化本来の目的だが、15年2月に最高検は犯罪事実を証明する証拠として活用を検討するよう指示を出した。例えば、身ぶり手ぶりを交え犯行状況を話す被告の映像は有罪の有力な証拠になる。

 栃木小1女児殺害事件の裁判員裁判では被告が自白する映像が7時間以上も法廷で再生され、16年の一審宇都宮地裁判決はこれを大きなよりどころに無期懲役とした。だが18年には東京高裁判決が「映像で被告の様子を見て自白の信用性を判断することには強い疑問がある」と一審判決を破棄、状況証拠を基に改めて無期懲役を宣告した。

 映像の証拠活用にブレーキをかけた形だ。通信傍受と司法取引は運用実績がまだ少ないが、今後増えるとみられ、十分なチェックを要する。

 証拠開示を巡る議論にも注目したい。茨城県で1967年に男性が殺害された布川事件で再審無罪が確定した男性による国家賠償請求訴訟の判決で、東京地裁は元の裁判で検察が証拠開示を拒否したことを違法とするなどし、賠償を命じた。重要な証拠は被告に有利、不利を問わず法廷に出すべき義務を負うとした。

 検察の責務を明確にしたといえる。通常裁判で証拠開示は拡充されたが、再審には開示のルールがない。どれだけ開示されるかは裁判官の訴訟指揮次第。通常裁判の開示の仕組みを再審でも活用できるよう法整備を急ぐべきだ。

2019年6月3日 無断転載禁止