最終盤の国会/解散風に浮足立つな

 国会が会期末まで残り3週間となった。異例の厚遇ぶりばかりが際立ち、肝心の貿易交渉の中身が判然としないトランプ米大統領の来日、ロシアとの北方領土交渉の現状、いまだに核心部分が闇のままの森友、加計両学園問題や統計不正、国内総生産(GDP)がプラス成長を示しながら変調を指摘される日本経済の見通し…。聞きたいこと、審議してもらいたいことは山ほどある。

 ところが、国権の最高機関が十分機能を果たしているとは言い難い状況が続く。国政全般をテーマに開く衆院予算委員会は、与党が難色を示して3カ月も開かれていない。ほかでもない。夏の参院選に合わせた衆参同日選挙、つまり衆院解散・総選挙の観測が飛び交い、与野党とも浮足立っているからだ。

 安倍晋三首相は先日の経団連の総会で、「『風』という言葉には今、永田町も大変敏感だ。一つだけ言えるのは、風は気まぐれで、誰かがコントロールできるようなものではない」と述べた。ジョークのつもりでも、解散権を持つ首相自らが「解散風」に言及するのは、軽率、不見識と批判されても仕方あるまい。

 まず何よりも首相に説明してもらいたいのは、日米首脳会談だ。トランプ大統領はツイッターや首相との会談などで「7月の選挙までは、交渉の多くのことで取引を待つ」「日本との貿易不均衡は信じられないくらい大きい。貿易交渉で8月に大きな発表ができる」と明かしている。

 農産物の関税撤廃を迫り、自動車の輸入増を「安全保障上の脅威」と位置付ける大統領の発言だけに、選挙前には表に出せないような”密約”があるのではないかと野党が勘ぐるのも無理はない。貿易交渉は日本経済の行方を左右し、有権者が一票を投じる上での大きな判断材料だ。「日米同盟の揺るぎない絆を鮮明にした」(首相)という自画自賛では済まされない。

 国会前半の論戦の焦点となった厚生労働省の統計不正。政府、与党は、森友、加計問題と同様に逃げ切りを図ろうとしている。「虚偽の説明」を認めながら、「組織的な隠蔽(いんぺい)」を否定した同省特別監察委員会の調査は明らかに不十分だった。にもかかわらず、国会は真相解明の任務を果たしただろうか。野党が求めた2018年の共通事業所における実質賃金伸び率の算出にも政府は応じていない。

 衆院議員の任期は4年だ。選挙で掲げた公約を任期中に実現するために努力するのが政治の本来の姿だ。まだ、その折り返し点にも達していない時期に「解散風」を吹かせる首相や自民党幹部、それに右往左往する議員の振る舞いは、選挙を有利に運びたいという私利私欲だけが浮かび、日本の政治の貧困さを如実に物語っている。

 衆院が混乱したり、内閣と対立したりして、内閣が的確に行政権を行使しがたい場合に衆院解散ができるというのが、憲法が規定する三権分立の精神だろう。自民党はここまでの衆参両院選の大勝により圧倒的多数の議席を占めている。その「政治資産」を人口減少や加速する少子高齢化など首相自身が「国難」と呼ぶ政策課題にどれだけ振り向けてきたのか。今は山積する懸案に本腰を入れて取り組むべきときである。与党はそれを肝に銘じてもらいたい。

2019年6月5日 無断転載禁止