パワハラ規制/実効性に疑問拭えない

 職場のパワーハラスメントを巡り、企業に相談体制整備など対策を義務付ける法律ができた。セクシュアルハラスメントや妊娠出産絡みのマタニティーハラスメントへの対策は既に義務付けられているが、パワハラについては企業の自主的な努力を促すにとどまっていた。大企業は来年4月から、中小企業もその後2年以内に義務化される。

 厚生労働省の都道府県労働局には雇い止めや採用内定取り消しなど、さまざまな相談が寄せられるが、その中でパワハラを含む「職場のいじめ・嫌がらせ」は2012年度以降、常に最多。17年度には約7万2千件と、02年度の10倍以上になった。精神障害の労災認定も増加傾向にある。

 被害の深刻化を背景にようやく法規制に腰を上げた。一歩前進との見方もあるが、労働者側が強く求めた罰則を伴う禁止規定はない。「指導との線引きが難しい」とする企業側の言い分が通った。どのような行為がパワハラに当たるか、厚労相の諮問機関・労働政策審議会の議論を経てこれから指針が策定されるが、実効性に疑問を拭えない。

 10年以上前、同じように義務付けられたセクハラ対策は思うような結果を残せていない。加害者や企業に責任を負わせる禁止規定なしに被害をなくすのは難しい。被害救済の観点から規制の在り方を再検討する必要がある。

 先に労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などが一括改正され、三つのハラスメントを「行ってはならない」と明記。国と事業主、労働者に対し他の労働者の言動に注意を払う責務を規定。事業主には被害を相談した労働者に解雇など不利益な取り扱いを禁じた。

 均等法は07年からセクハラ防止を、均等法と休業法は17年からマタハラ防止をそれぞれ事業主に義務付けている。今回、パワハラ防止義務が盛り込まれた推進法は「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により就業環境を害する」と初めてパワハラを定義した。

 労使も参加した厚労省の検討会はパワハラを、暴行など「身体的な攻撃」▽脅迫や暴言など「精神的な攻撃」▽仲間外しや無視といった「人間関係からの切り離し」▽不要なことや遂行不能なことを強制する「過大な要求」▽程度の低い仕事を命じる「過小な要求」▽私的なことに過度に立ち入る「個の侵害」-と6類型に分類している。

 これを踏まえ、どのような言動が「業務の適正な範囲」を超え、パワハラに当たるかを具体的に指針で示す。パワハラ規制もセクハラ規制並みになる。しかし労働政策研究・研修機構による16年の調査では、セクハラの相談窓口を設けている企業は36.5%にとどまり、40.8%が対策に取り組んでいないとした。

 そうした中、被害を受けた女性の63.4%は泣き寝入りしていた。規制の実効性確保がいかに難しいかが分かる。パワハラ規制についても、同じことが言えるだろう。

 パワハラで休職や退職を余儀なくされる例や自殺に追い込まれる例は後を絶たない。働き方改革の議論を加速させた広告大手電通の女性新入社員の自殺を巡っては、長時間労働とともにパワハラも背景として指摘された。実効性のある法整備が求められる。

2019年6月8日 無断転載禁止