老後2千万円問題/財政検証を速やかに出せ

 公的年金だけでは老後の備えとして2千万円不足するとした金融庁報告書が批判を浴び、事実上の撤回に追い込まれた。報告書の説明不足が混乱を招いた面もあるが、制度の持続性や給付水準などに対する国民の潜在的な不安があらためて噴出したとも言えよう。政府は年金の健全性をチェックする「財政検証」を速やかに公表し、実態を明らかにしなければならない。

 問題になったのは、年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要になるとの試算。これが年金に関し「100年安心」としている政府の立場や方針と矛盾するとの疑念が広がった。

 10日の参院決算委員会では立憲民主党の蓮舫氏が「100年安心」に疑義が生じたと追及。安倍晋三首相は、試算は不正確で誤解を与えた、と報告書が不適切だったとの考えを示した。その上で年金については給付を抑制する「マクロ経済スライド」の導入や運用実績を挙げ、信頼性はより強固になったと強調した。

 2千万円は、公的年金を中心とする収入約21万円に対し支出は約26万円で、これによる月5万円の赤字が20年続けば1300万円、30年なら2千万円が不足するとして算出された。

 これはあくまでも一つのモデルで、状況によっては年金で全ての支出を賄っている世帯もあるかもしれないが、金融庁が極めてまれなケースをモデルにしたとは思えない。逆に会社勤めだった人なら、退職金などからの取り崩しや、定年後も働き続けることで得る給料で、年金の不足分を補っているのが実態に近いのではないか。

 しかし退職金を不足なく確保できる人はどれだけいるだろうか。定年後にさまざまな事情から働けなくなって収入がなくなる人もいるはずだ。70代、80代になると蓄えも少なくなり、体力的にも働くことが困難になる。

 こうした中で頼りになるのが年金であるのは間違いない。だから国民は保険料を納め続けている。しかし、少子高齢化が進み、給付水準の引き下げも現実味を帯びてきた。国民は年金で老後生活に必要な資金をどの程度まで賄えるのか不安を高めている。

 安倍首相は10日、「100年安心」について「現役、将来世代も含め皆さんに安心してもらえる制度になっている」と説明した。しかし年金で生活資金をどの程度賄えれば「安心」なのかは、それぞれの資産、所得状況などで異なってこよう。最も弱い立場に置かれている人たちに「安心」を感じてもらえなければ「安心」とは言えまい。

 「100年安心」が揺らいでいないなら、経済状況や人口、雇用情勢の変化を踏まえて年金財政の健全性をチェックし、給付水準の見通しなどを示す財政検証を早期に公表し、その根拠を示さなければならない。今国会会期中に公表し、国会審議に付した上で詳細な情報を、参院選での投票判断の材料として国民に提供するべきだろう。

 金融庁の報告書は説明不足があったものの、年金や退職金の減少見通しなどに言及し、資産運用・管理による老後生活への備えの必要性に踏み込んだ。年金制度と衝突するのではなく、補完し合う関係が本来の姿なのだろうが、今回はかなわなかった。

2019年6月12日 無断転載禁止