米朝首脳会談1年/過去の再現にするな

 史上初の米朝首脳会談が実現して1年。シンガポールでトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が署名した共同声明は、非核化や米朝関係改善を盛り込み、朝鮮半島に残る冷戦構造が解体に踏み出す第一歩になるのかと国際社会は注視した。

 しかし、共同声明の内容を具体化する交渉は難航、今年2月にハノイで行われた2回目の首脳会談が物別れに終わり、交渉の行き詰まりは決定的となった。非核化で合意したものの履行段階で暗礁に乗り上げ対決局面に向かうという「いつか来た道」を再現してはならない。

 特に懸念されるのは、米朝双方の政策調整や交渉陣容に関し、不透明さが増していることだ。トランプ政権では、金正恩氏への信頼関係を再三強調するトランプ大統領と、北朝鮮の非核化の意思に懐疑的なポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の間で意思疎通が円滑に行われているのかどうか見えにくい。

 5月初めに北朝鮮が相次いで発射した短距離弾道ミサイルを巡っても「脅威ではない」とするトランプ大統領と、「国連安全保障理事会の制裁決議違反だ」とするポンペオ、ボルトン両氏の受け止めは正反対だった。北朝鮮に相反するシグナルを送ってしまったことになる。

 一方の北朝鮮では、ハノイでの首脳会談が不調に終わって以降、対米交渉を担当した幹部や実務者の去就がしばらく途絶え、韓国では粛清説まで報道されるなど、再交渉の行方は視界不良だ。

 冷却期間は必要かもしれないが、両首脳が署名した共同声明の履行に向けた実務交渉を早急に再開すべきだ。米朝間の相互不信は根深い。過去の非核化に関する合意が機能しなかった最大の要因もここにある。

 米朝とも首脳の決断で共同声明をまとめたが、共同声明は努力目標を掲げたにすぎない。トップダウンの効用はここまでだ。金正恩氏から10日に手紙が届いたことを明らかにしたトランプ大統領だが、今後の履行段階では、実務交渉を積み上げながら信頼醸成を図るという外交の基本に立ち返らなければならない。

 金正恩氏は完全な非核化が全てに優先すると迫るトランプ政権に対し、「年末まで」と時間を区切った上で、段階的に非核化を行いながら、制裁の緩和や解除、関係改善に向けた措置などを講じるプロセスづくりを求めている。

 こうした立場の相違からにらみ合いを続け危機が再燃するという構図は、北朝鮮の核問題が浮上した1990年代から繰り返されてきた。少なくとも北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射を留保している現在の状況を維持しつつ、非核化プロセスを明確にする交渉が求められる。

 そのためには、日韓や中ロなど関係国が役割を分担して政策調整を図る必要があろう。こうした認識を共有するためにも、今月末に大阪で開催される20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で首脳レベルの意見交換をする必要がある。

 安倍晋三首相は前提条件なしでの日朝首脳会談開催を呼び掛けているが、北朝鮮の非核化という大きな構図の中で果たす日本の役割もアピールする準備をすべきだ。

2019年6月13日 無断転載禁止