安倍首相のイラン訪問/粘り強い仲介交渉を

 安倍晋三首相のイラン訪問は、核問題を巡って対決を続けるイランと米国の軍事衝突を回避する方向で一致し、首相は緊張緩和に向けた努力をイラン側に約束した。日本が担う仲介外交の正念場はこれからだ。イランが首相に表明した原油禁輸制裁の停止という要求をトランプ米大統領に伝え、前向きな姿勢を引き出さなければ、イランの態度の軟化は期待できない。危機回避のために、日本は粘り強く仲介役を務めたい。

 首相のイラン訪問は1979年のイラン革命以来初めてだ。最高指導者のハメネイ師が今回の危機に関連して主要先進国首脳と会うのも初めてで、制裁で苦しむイラン側の日本に対する期待の大きさが分かる。

 イラン情勢は緊張の一途をたどっている。5月中旬には隣国イラクの首都バグダッドにある米大使館近くにロケット弾攻撃があり、さらにサウジアラビアのタンカーへの攻撃、同国のパイプラインへの攻撃が続いた。首相がイランを訪問した13日にはペルシャ湾のホルムズ海峡で日本関係の積み荷を積んだ船舶が攻撃を受けた。

 米国は中東地域に空母や戦略爆撃機を派遣。イランとの本格的な軍事衝突に発展する懸念も強まっている。イランを含むペルシャ湾地域は世界の原油生産の中心地で、日本の原油輸入の8割以上がホルムズ海峡を通過する。軍事衝突に発展すれば油価が乱高下し、経済に打撃を与える。

 日本はイランと伝統的な友好関係を持ち、今年は外交関係樹立90年の節目である。また首相はトランプ氏とイラン情勢で頻繁に意見交換を重ね米国からも信頼されている。イラン問題といえば、西欧諸国の活動が目立っていたが、内政の混乱やトランプ氏との溝から仲介役を果たせない。

 イランと米国双方とも軍事衝突は望んでおらず緊張回避の道を探っている。イランは今年5月初旬に始まった原油の本格的な禁輸制裁で、経済が失速し国民の不満が高まっている。制裁緩和のために米国との何らかの対話を模索している。ハメネイ師は首相に対して、イランは核兵器を所有しないと言明したが、これも米国に向けた駆け引きのメッセージだろう。

 トランプ氏の方もボルトン国家安全保障問題担当補佐官らイランの体制転換を目指す強硬派に従って「最大限の圧力」政策をとったが、衝突の懸念が高まったことで、11日には「イランを助けたい」と述べ、交渉にかじを切る考えも示唆した。

 当面の焦点は原油制裁の停止というイランの要求に対して米国がどう反応するかだ。今回の危機はイランが順守する核合意から米国が一方的に離脱し制裁を科したことで始まった。まずは米国の姿勢の変化があるべきだ。首相は粘り強く説得してほしい。

 もちろん、イランも中東の民兵組織への支援や弾道ミサイル開発など問題は多い。核合意も短期的な核開発の制限を定めるだけで、長期的な課題は手つかずだ。これらはイランが譲歩すべきだ。

 シリアの混乱、イエメン内戦など、中東の紛争に共通するのはイランの存在だ。これらの問題を少しでも解決するには米国とイランが対話を始めることが必要だ。両国をつなぐ仲介は困難だが、意義は大きい。

2019年6月14日 無断転載禁止