香港逃亡犯条例/撤回し懸念の払拭を

 香港の民主派や若者は、香港から中国への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正により、中国にとっての「政治犯」が本土に引き渡されると警戒し反対運動を活発化させている。大規模デモに続き立法会(議会)を包囲した数万人の若者と警官隊が衝突、多数が負傷した。

 反対運動の高まりは香港の「中国化」への強い危機感からだ。中国、香港両政府は改正案の採決を目指す姿勢を崩しておらず、今後も対立は激化しそうだ。

 中国は1997年の香港返還の際「一国二制度」と「高度な自治」を約束した。国際公約を守るべきだ。両政府は改正案を撤回し、住民の懸念払拭(ふっしょく)に努める必要がある。

 香港政府は2月に条例改正の方針を表明。「政治犯は対象外」と説明するが、中国では人権派弁護士らが刑事事件で訴追される例が相次ぐ。民主派は中国が刑事事件をでっち上げ、香港の民主派や独立派らの引き渡しを求める恐れがあると猛反発している。

 中国側は条例改正で、本土から香港に逃げ込んだ重罪犯300人余りの引き渡しを受けたい考えだ。中国の習近平国家主席は汚職一掃を図る反腐敗闘争を推進する。逃亡犯には習氏の政敵や関係者もいるといわれる。

 香港の民主派団体が9日に行った大規模デモには主催者発表で103万人(警察調べ24万人)が参加。返還後最大規模で、2014年の民主化デモ以来の激しさとなった。

 香港政府は20日の条例改正案の採決に向け、12日から立法会で審議を始める予定だったが、同日、数万人のデモ隊が立法会を包囲したため審議は延期され、採決のめどは立っていない。政府は採決を強行せず、政治犯引き渡しに利用されないためにどうすればよいか真剣に検討すべきだ。

 15年、中国当局は越境捜査によって、中国に批判的な書物を扱う香港の書店関係者5人を相次いで拘束した。条例改正により、香港の「司法の独立」が失われるとの住民の憂慮はもっともだ。

 1989年6月、中国当局が民主化運動を武力弾圧した天安門事件から30年。香港で開かれた追悼集会には、過去最大規模の18万人超が参加。香港の中国化を食い止め、自由と民主を守りたいとの強い意思を示した。

 中国の国内総生産(GDP)は2010年、米国に次ぐ世界第2となった。一方、香港のGDPは返還時には中国の18%だったが、近年は3%に落ち込んでいる。

 習氏は中国広東省と香港、マカオを一体化した経済圏構想を国家戦略として主導する。香港の経済界は歓迎するが、民主派は同化政策と警戒。中国の投資に伴う住宅価格の高騰や格差拡大などへの不満も若者の間で根強い。

 条例改正案について、菅義偉官房長官、ポンペオ米国務長官、英国のハント外相らが相次いで懸念を表明した。中国外務省の報道官は改正案への「断固支持」を表明し、「香港問題は中国内政に属し、いかなる国、組織、個人も干渉する権利はない」と反発した。

 香港の中国化は、中国の非民主的な政治制度の拡大を意味する。それは香港だけでなく、国際社会にとっても好ましくない。「自由と民主」を守ろうとする香港の人々を支持したい。

2019年6月15日 無断転載禁止