ペンと乳(49) 断乳(下)

陣痛以来のもだえる痛み

 ああ、痛い…。こうつぶやくのは出産の時以来か。もちろん陣痛は痛かった。だが今回の痛みは違うしんどさがあった。

 頻繁に吸われていた乳房が突然、吸ってくれる人を失い、どんどん母乳がたまっていく状態になった。母乳は血液からできているので、血がたまって腫れた状態を想像してもらえると分かるだろうか。ガチガチの熱い鉄の塊を両胸に抱え、横になろうが座ろうが、容赦ない痛みが襲ってくる。針を刺して空気を抜いたら楽になるような感覚だった。血行がよくなり母乳を生産しやすくする入浴も控えた方がいいと聞き、諦めた。

 痛みを軽減しようと搾れば、脳が誤解し、さらに母乳を生産するらしい。ネット情報によると3日がピークで、それ以降は徐々に腫れが落ち着くという。それを頼りに三日三晩苦しんだ。あまりに苦しいので「圧抜き」という、搾るまでではないが、乳首の周りを押さえてじわ~と母乳を分泌させ、張りを抑える方法にも頼った(うまくできず効果はなかったが)。

 4日目。いまだ熱を持ちカチカチだが、確かに峠を越した感じはする。翌日は平日で、仕事の休憩時間に母乳外来へ向かった。助産師が所見し「よく乳腺炎にならんで済んだね」と言う。本来は突然やめずにきちんと計画的に授乳回数を減らし、搾らず我慢、ではなく少しは搾るべきだったという。ネット情報のみで断行した自身の行動を省みた。

 手当てを受けた乳は何とも軽やかで、あの激痛がうそのよう。乳が痛くないことがこんなに幸せとは。子は服をめくって乳を「吸うまね」をするが、実際には吸わずにすぐに服を戻すようになった。この子なりに区切りをつけたんだろう。本当は本人が「もういらん」と言うまで吸わせてやりたかったが、これがわが家の「卒乳」だ。

 文字通り体力と睡眠時間を削り、体調も安定しなかった1年半の授乳期間を思い返す。これまで本当によく頑張った。素直に自分と乳を褒めてやろうと思った。

2019年6月29日 無断転載禁止