米朝首脳対面/象徴性に見合う進展を

 トランプ米大統領が板門店(パンムンジョム)で北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と対面、歴代米大統領として初めて北朝鮮領に足を踏み入れた。さらに韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領を交え3首脳が並んで談笑もした。

 対決から平和へ向かおうとする朝鮮半島の現状を象徴する場面であり、朝鮮戦争の休戦協定から66年目に実現した板門店での米朝首脳会談という歴史的な意義は評価されてしかるべきだろう。

 だが、肝心の非核化交渉は行き詰まったままだ。板門店で米朝首脳が対面、会談したという象徴性に見合う進展が非核化交渉に求められる。非核化で具体的な措置が打ち出されなければ、「政治ショー」と揶揄(やゆ)されもした過去2回の米朝首脳会談と同様、遠からず期待は消え去り、失望に変わってしまう。

 2年前の同じ日、大統領就任直後の文大統領はワシントンでトランプ大統領と首脳会談を行い、北朝鮮の核・ミサイル開発を抑止するため同盟関係強化で合意した。そしてその4日後、米国独立記念日に北朝鮮は日本海に向け弾道ミサイルを発射した。当時の緊迫した状況を握手と笑顔に反転させた流れを首脳外交は確かに生み出した。

 しかし首脳外交で突破口が開いたように見えても、容易に失速してしまうという危険性を常に抱えているのが、米朝関係であり、南北関係だ。

 米朝両首脳は今回の会談で、実務協議を2、3週間後に再開することで合意した。この協議で非核化の具体的措置について議論しなければならない。それが、次回の米朝首脳会談をトップダウンのアドリブで展開される「政治ショー」ではない意義ある会談にするための基盤となる。

 トランプ氏には、来年秋の大統領選に向け動き始めた選挙戦を意識している側面もあろう。金委員長との首脳会談や親書交換などを通じ、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を自制する状態を「外交成果」とする思惑だ。板門店で終始、「歴史的な瞬間だ」と繰り返したトランプ氏の発言が、その思惑をうかがわせる。

 一方の北朝鮮も、2月にハノイで行われた米朝首脳会談が不調に終わったダメージを回復する機会として、板門店でのトランプ氏との対面を利用しているとみられる。短時間だったが、トランプ氏が軍事境界線を越え北朝鮮領に足を踏み入れたことは、米国が譲歩したとの印象を国民に与えることができるためだ。

 だが、米朝とも政治的な思惑を先行させたままでは、朝鮮半島の非核化や新しい米朝関係樹立、朝鮮半島の平和体制構築を核心とする第1回米朝首脳会談の共同声明は「お題目」にとどまってしまう。共同声明の言葉を行動へ移す覚悟が米朝双方に求められる。

 韓国にも新たな役割が求められる。これまで、米朝を仲介するレベルで自画自賛する傾向が強かったが、米朝首脳は互いに相手への信頼感を強調しつつ、会談も3回実現した。難航している非核化交渉を進展させるための政策調整、非核化の定義に対する米朝の認識差などを解消する外交努力が必要となる。

 朝鮮半島の平和体制構築には日本や中国、ロシアなど関係国との連携も欠かせない。主役は米朝首脳のように見えるが、韓国も当事者なのだ。

2019年7月1日 無断転載禁止