ハラスメント禁止条約/批准に向け検討進めよ

 職場でのあらゆる暴力とハラスメントを全面禁止する条約が国際労働機関(ILO)の総会で採択された。ハラスメントを巡る初の国際基準となり、批准した国は「身体的、精神的、性的、経済的損害を引き起こす許容できない行為や慣行、その脅威」の禁止を法律で義務付け、民事上の責任や刑事罰などの制裁を設けるよう求められる。

 性被害を告発する「#MeToo」運動が世界的に広がり、セクハラやパワハラ、妊娠出産に絡むマタニティーハラスメントなどの被害根絶が叫ばれている。先週末に閉幕した20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の首脳宣言にも「暴力、虐待、ハラスメントを根絶するために措置を講じる」と明記された。

 各国から政労使の代表が集まり、制定にこぎつけた条約は国際的な潮流に追い風となろう。日本政府も採択で賛成票を投じた。しかし「批准は別問題」と慎重な構えを崩していない。ILO総会を前に5月、ハラスメント規制を強化する法律を成立させたものの、条約が求めている基準との隔たりが大きいためだ。

 新たな法律に制裁規定はない。保護対象も社員に限られる。条約は求職者や実習生も含む。批准した場合は、見直しが必要になる。政府は企業の自主性に委ねたい考えのようだが、それでは規制の浸透に限界がある。批准に向け具体的な検討を進めるべきだ。

 ILOを舞台にした条約案を巡る議論は紛糾した。昨年の総会では国際基準の必要性で一致したものの、条約制定を求める労働者側と、拘束力のない勧告にとどめたい使用者側とが対立。「条約を採択すべきだ」とする報告書の採択にとどまり、中身の議論は今年の総会に持ち越された。日本政府は「勧告が望ましい」という立場だった。

 だが今年は一転、条約歓迎を表明。5月の規制強化を国内努力として紹介し、採択では賛成に回った。使用者代表の経団連は投票を棄権した。

 条約発効は2020年の見通しだが、政府にとって批准のハードルは高い。5月に成立したハラスメント規制法は初めて企業にパワハラの防止を義務付けたほか、セクハラやマタハラも含めハラスメントを「行ってはならない」と定めた。しかし労働者側が求めた禁止規定も、保護対象を就職活動中の学生や顧客などに広げることも見送られた。

 理念を示すにとどまり、実効性に疑問の声が上がっている。厚生労働省によると、18年度に仕事が原因でうつ病などの精神疾患となったとする労災申請は1820件で過去最多。うち465件が労災認定され、原因別では「嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」が69件で最も多かった。「セクハラを受けた」も33件を数え、全て女性だった。

 都道府県労働局に寄せられた「職場のいじめ・嫌がらせ」の相談は17年度に約7万2千件に上った。10年以上前に企業に防止が義務付けられたセクハラを巡って相談窓口の設置が進まない中、被害を受けた女性の63.4%が泣き寝入りしていたとの調査結果もある。

 ハラスメントが原因となり、自殺したり、休職や退職に追い込まれたりする例は後を絶たない。被害の深刻さと国際水準を考えると、新たなハラスメント規制法は中途半端というほかないだろう。

2019年7月8日 無断転載禁止